彼は書類の束を手に持って、書斎に置こうとしていた。
海野桜は彼の行く手を遮り、「私が渡したものを見ましたか?」
東山裕はそこでようやくあの封筒のことを思い出した。
海野桜は彼の反応を見て、見ていないことを悟った。「見てないんですね?」
「時間がない!」彼は彼女を避けて、書斎へ向かい続けた。
海野桜は彼の後ろについて行き、「必ず見てくださいって言ったじゃないですか?ちょっと目を通すだけなのに、そんなに時間かからないでしょう。」
東山裕は冷笑した。「私の時間をあなたのことに無駄にする気はない!」
彼の時間は一分一秒が貴重で、彼女に一秒たりとも無駄にしたくなかった。
毎回このように冷たく拒絶されては、聖人でも気分が悪くなるだろう。
海野桜は淡々と言った。「お渡ししたのは離婚協議書です。見ていただければ、きっと私との離婚に同意してくださると思います。でも見る時間がないなら構いません。今新しく印刷してお渡しします。」
東山裕は突然振り返り、上から彼女を見下ろした。「離婚協議書?」
海野桜は頷いた。「はい。」
男の表情は一瞬にして冷たくなり、鋭い刃物のような目つきになった。「海野桜、どうしてもこのタイミングで私を困らせたいのか?!」
彼は彼女がこの特別な時期を利用して、わざと彼に逆らおうとしていると思っていた。
彼は彼女が本当に離婚を望んでいるとは思っていなかった。彼が離婚に応じないと分かっているからこそ、わざとこんな真似をしているのだと。
海野桜は真剣な表情で、「そんなつもりはありません。内容を見ていただければ私が本気だということが分かります。それに、あなたのキャリアに影響を与えることは絶対にありません。」
「ふん……」東山裕は冷笑した。「影響がないだって?私を脅そうとしているとしか思えないな!なぜ今までしなかった離婚を、わざわざこのタイミングで持ち出す?これで私を脅せると思っているのか?」
「違います!」
「海野桜、もう一度警告しておく。大人しくしていろ!」東山裕は鋭く威嚇し、目には危険な警告の色が浮かんでいた。
もし彼女がまた騒ぎを起こすなら、絶対に許さないぞ!
海野桜は無力感を感じた。「なぜ私が本当に離婚したいと信じてくれないんですか?」
東山裕は答えず、ただ皮肉っぽく冷笑した。「信じていないなんて誰が言った?その時が来たら私から離婚を切り出すから、その時になって自分の言葉を撤回するなよ!」
「つまり、今は駄目だということですね?」
「安心しろ、すぐだ!必ずお前の願いを叶えてやる!」
やはり今はまだ駄目なのか……
彼が離婚に応じない限り、海野桜一人では離婚できない。
仕方ない、もう少し我慢するしかない。実際、我慢はできるはずだった。ただ、彼と離婚できない一日一日が、悲劇が繰り返されるような気がしてならなかった。
歴史が変えられないことを恐れて、早く離婚したかった。
でも今は離婚できないなら、我慢するしかない。
どうせ彼女が離婚に同意している以上、この時期が過ぎれば、必ず離婚できるはずだ。
海野桜は仕方なく妥協した。「分かりました。待ちます。離婚協議書の準備をお急ぎください。もう一度言いますが、離婚については本気です。」
そう言って、彼女は書斎を出て行った。
東山裕は彼女の背中を見つめ、瞳の奥に複雑な色が宿っていた。
彼女は本当に本気なのか?
しかし彼には彼女がなぜ離婚にこだわるのか理解できなかった。本当に悟ったというのか?
ふん、7年もの間しつこく付きまとってきた彼女が、悟るなんてことがあるのか。突然悟ったなんて、まさに笑い話だ!
しかし彼女の目的や理由が何であれ、彼女が離婚を望むなら、彼も喜んで同意しよう。
この時期さえ過ぎれば、すぐにでも彼女と離婚してやる!
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しかし翌日には事態が動いた。
東山裕が会社に着く前に連絡を受けた。彼の離婚話がネット上で広まっているという。
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