今回のトラブルは東山裕にとって、確かに大した問題ではなかった。
彼らが離婚の件を否定すれば、他人も真偽を判断できないだろう。
しかし、体裁を保つための努力は必要だった。
例えば柴田治人が言ったように、彼と海野桜は見せかけの夫婦を演じなければならない……
……
日が暮れる前に、東山裕の特別秘書の山田大川が訪ねてきた。
「奥様、社長が今晩のパーティーにお迎えに来るようにと命じました」とソファに座っている海野桜に山田大川は丁寧に言った。
海野桜は彼のことを知っていた。東山裕の側近は皆よく知っていたからだ。
ただし、この人生では山田大川は彼女に数回しか会っておらず、あまり親しくはなかった。
「パーティー?」海野桜は驚いた。
山田大川は頷いた。「はい、今夜は『東山』の祝賀会です。当社がアメリカで上場を果たしたことを祝うものです」
「……」海野桜は一瞬固まった。
前世でも『東山』が祝賀会を開いたことを思い出した。
ただし、その時は彼女が林馨を車で轢いた直後で、毎日東山裕に泣きついていたため、彼は彼女にうんざりして家に帰らず、祝賀会にも彼女を連れて行かなかった。
実は最初から、祝賀会のことすら知らなかった。
ずっと後になって、人づてに聞いた。さらにその夜のパーティーで、東山裕が同伴した女性が林馨だったことまで知った!
そう、祝賀会の夜も、彼は家に帰らなかった!
彼女はその夜、彼が林馨と過ごしたと信じていた。
これも、彼女が林馨をそれほど憎み、常に彼女に嫌がらせをしていた理由だった。
女性として、あの時の彼女の直感は常に、東山裕の林馨に対する態度が少し違うと告げていた……
彼女はあまりにも不安で、だから常に手段を尽くして林馨に対抗していた。
しかし今世では二人の仲を成就させようと決めたのに、なぜ東山裕は同伴者を彼女に変えたのだろう?
海野桜は頭が悪くなかった。すぐに要点を理解した。
今日、離婚の噂が広まったばかりで、東山裕が彼女をパーティーに連れて行くのは、噂を否定するためだろう。
海野桜は世の中の移り変わりの不思議さを感じた。
前世では参加したかったパーティーに参加できず、今世では参加したくないのに、思いがけず機会を得てしまった。
残念ながら、もう興味はなかった。
「パーティーは何時から?」彼女は淡々と尋ねた。