第104章 私は福岡市に残ります

海野桜はベーコンを切る動作を一瞬止めた。

張本家政婦が誤解していることは分かっていた。昨夜、彼女と東山裕の間で何かあったと思い込んでいるのだ。

実際には何もなかった。

東山裕は犬に変身して、一晩中彼女に噛みついていただけだ!

でも、そんなことは説明できない。

海野桜は朝食を済ませると外出した。

留学の件を早く決めて、ここから早く離れたかった。

そして、彼女を助けられる唯一の人物は、おじいちゃんだった。

しかし、老人は彼女の要望を聞くと、考えもせずに拒否した。

「だめだ、留学は認めない。大学に行くなら、福岡市で探しなさい」

海野桜はおじいちゃんがこう答えることを予想していた。彼女は既に言い方を考えていた。

「おじいちゃん、私が一番得意なのは外国語で、他には何もできないの。海外で勉強することで、私の長所を活かせるのよ」

「自国の知識も身につかないのに、よその国の知識を学ぼうというのか?」老人は断固として首を振った。「海外は君には向いていない。行かせない」

「おじいちゃん、本当に行きたいの。行かせて、たった一年だけでいいから!」海野桜は誓うように約束した。

しかし、彼女の小さな思惑など、浜田統介が分からないはずがなかった。

そして、彼女が老人の相手になれるはずもなかった。

「桜や、おじいちゃんが支持しないわけじゃない。おじいちゃんはもう80歳だ。あとどれだけ生きられるか分からない。お前が一年行けば、一年会えなくなる。もしその一年でおじいちゃんが死んだら、もう二度と会えなくなってしまう」

海野桜はすぐに目を赤くして、即座に首を振った。「おじいちゃん、もう行かない!福岡市に残ってお世話するわ。どこにも行かない!」

「そうか、福岡市に残ろう。おじいちゃんはすぐにいい学校を探してあげるから、そこで勉強するんだ」老人は満足げに、そして抜け目なく笑った。

こうして海野桜は、あっさりと留学の考えを諦めることになった……

実家にはそれほど長居せず、海野桜はまた出かけた。

今日は土曜日で、橋本友香と食事の約束があった。

この人生では橋本友香と友達になって、前世での借りを少しでも返したいと思っていた。

幸い二人は性格が合い、とても話が合った。

橋本友香も彼女と友達になることを喜んでいた。