突然、濃厚な料理の香りが漂ってきて、海野桜は思わず唾を飲み込んだ。
まあ、確かにちょっとお腹が空いているかも……
東山裕は彼女の大好物の肉団子を取り分けて、「食べなさい。会社の規定では午後1時半から勤務だから、ゆっくり食べる時間はたっぷりあるよ」
だから昨日のように急いで食べないでほしい。
海野桜は彼の言外の意味が分からず、大きな口で食べ始めた。
「美味しい、すごく美味しい!」美味しさに幸せを感じて、海野桜は泣きそうになった。
東山裕は思わず笑みを浮かべ、「そんなに頑張っているんだから、好きなものを毎日食べさせてあげるよ」
「いやです!」海野桜は断った。
「どうして?」
「毎日食べたら、いつか飽きちゃいます。そうなったら何を食べても興味がなくなっちゃう」
「……」東山裕は頷いて、「そうだね。でも食堂の料理が好きじゃないみたいだから、明日からメイドに弁当を持ってこさせようか」
「いいえ」海野桜はまた断った。「食堂の料理に不満はありません。私も社員の一人なんだから、食堂で食べるべきです」
でも彼女は社長夫人でもあり、ただの社員というわけではない。
しかし東山裕は彼女の考えを尊重し、海野桜の好きな料理を取り分け続けた。「食べ終わったら、図面の描き方を教えてあげる」
「もういいです……」海野桜がまた断ろうとすると、東山裕は不機嫌になった。「海野桜、なぜ何でも断るんだ?誰でも私の指導が受けられると思っているのか?私が教えた方が、一ヶ月かけて独学するよりずっと効率的だぞ!」
海野桜は少し笑って、「なんで怒るんですか?私はお料理はもういいって言っただけです。自分の分で十分ですから!」
「……」
東山裕は突然、彼女の弁当箱から肉団子を全部取り戻した!
海野桜は心を痛めて、「何するんですか、それは私のです!」
「いらないって言ったから、返してもらう」
「だめです、それは私のものです、触らないで……」海野桜は取り返そうとするのを我慢して、弁当箱を抱えて端に寄った。また取られそうで怖かった。
東山裕は彼女の様子を見て、笑いを抑えきれない様子で、「分かった、もう取らないよ。早く食べて、食べ終わったら仕事だ」
海野桜は口を尖らせた。さっきまでゆっくり食べろって言ってたくせに。
……
食事が終わると、東山裕は先生モードに入った。