第164章 彼女を放っておくなんて、不可能だ

言葉が口まで出かかったが、彼女は恥ずかしくて言えなかった。

食べて飲んで遊ぶこと以外、彼女には何の取り柄もなかった。

「おじいちゃん、ご心配なく。私は何か身につけます。でも建築デザインは本当に学びたくないんです」彼女は東山裕とのすべての関係を断ち切ることを決意していた。彼の好意は受け入れないつもりだった。

彼に関することも学ばない。彼女の世界には彼は全く必要なかった。

浜田統介は鋭く問い返した。「じゃあ、何を学びたいんだ?そんなに長く考えて、決まったのか?」

「私は……」海野桜は目を動かし、笑って言った。「おじいちゃん、私、軍隊に入ろうと思います。除隊後も仕事はありますから!」

重要なのは、浜田家の地位があれば、除隊後にかなり良い仕事が用意されるということだった。

軍隊という言葉を聞いて、東山裕が最初に思い浮かべたのは相良剛だった。

彼は黒い瞳を少し上げ、淡々と言った。「軍隊は厳しいぞ。女の子には向いていない。それに、君にはもっと才能を活かせる道がある。軍隊は勿体無い。」

「私はそうは思いませんけど……」

「この件は急がない。ゆっくり考えて、数日後に返事をくれればいい。」東山裕は彼女の言葉を遮った。

海野桜もこの話題を続けたくなかった。淡々と言った。「もう遅いですから、東山様はお早めにお休みになられた方がいいでしょう。」

「確かに遅くなった。おじいちゃん、私は先に失礼します。また改めて伺います。」

「ああ、桜、裕を見送ってやりなさい。」浜田統介が言った。

海野桜は断らず、彼を玄関まで見送った。実は彼に言いたいことがあったのだ。

玄関に立って、彼女は淡々と尋ねた。「今日はどういうつもりだったんですか?なぜ私のことに口を出すんですか?」

東山裕は街灯に背を向けており、彼の大きな影が海野桜をすっぽりと包み込んでいた。

「特に意図はない。ただ君の才能を無駄にしたくないだけだ。」

「無駄かどうかは私の問題です。あなたが気にすることじゃありません。」

「どう言おうと、君と私は以前夫婦だった。君を助けられることがあれば、当然惜しむべきではない。」

海野桜は笑ってしまった。「あなたが私に死んでほしいと言ったのを覚えていますよ!」

東山裕の目が一瞬暗くなった。「申し訳ない。」

「何ですって?」