「はい、社長!」
「どこへ行くの?」海野桜は彼を見つめて執拗に尋ねた。
東山裕は軽く笑って言った。「相良剛と旧交を温めるだけだよ。知らなかったかもしれないが、以前は戦友だったんだ」
「桜さん、本当に昔話をするだけです。先に帰っていてください。また今度会いに来ますから」相良剛も笑顔で彼女に言った。
そう言うと、二人の男は振り返りもせずに立ち去った。
海野桜は少し躊躇した後、山田大川を引っ張って後を追った。
なぜか不安で、彼らが何か良くないことをしそうな気がした。
案の定、彼らはボクシングジムに向かった。
……
「バン!バン!バン!」
リングの上で、ヘッドギアとグローブを着けた二人は、容赦なく互いに攻撃を仕掛けていた。
一発一発が、相手を殺そうとしているかのようだった!
海野桜は恐ろしくて見ているのも辛かった。
「やめて!もう止めて!」思わず制止しようとした。
しかし二人は全く聞く耳を持たず、彼女がどれだけ叫んでも聞こえていないかのようだった。
まるで、どちらかが死ぬまで戦う勢いだった。
海野桜はますます疑問に思った。二人の間に一体何があったのか、なぜこれほどまでに憎み合っているのか?
「奥様、どうしましょう?社長の怪我はまだ治っていないのに、何か起きそうで…」山田大川は焦りながら言った。
確かに東山裕は、動きが遅くなってきている様子が見て取れた。
相良剛と同じように激しい動きを見せてはいたが、すでに劣勢に立たされていた。
それでも命知らずに相良剛を攻撃し続け、戦いを止める気配は全くなかった!
もちろん、相良剛も楽な戦いではなかった。
二人とも互いにボロボロになるまで殴り合っていた……
海野桜は何とも言えない苛立ちを覚え、不機嫌そうに山田大川に尋ねた。「出張に行ったんじゃなかったの?どうして戻ってきたの?!」
山田大川はため息をつきながら答えた。「確かに出張に行きましたが、飛行機を降りるとすぐに社長は帰りの便に乗ったんです」
「どうして?」海野桜は理解できなかった。
山田大川は躊躇いながら言った。「出発前から、社長は相良様があなたと会うことを知っていたんです……きっと、あなたのことが気になって仕方がなかったんでしょう」
「……」海野桜は少し驚き、東山裕を見つめながら、複雑な思いと苛立ちが入り混じった。