第210章 もう喧嘩はやめて

「はい、社長!」

「どこへ行くの?」海野桜は彼を見つめて執拗に尋ねた。

東山裕は軽く笑って言った。「相良剛と旧交を温めるだけだよ。知らなかったかもしれないが、以前は戦友だったんだ」

「桜さん、本当に昔話をするだけです。先に帰っていてください。また今度会いに来ますから」相良剛も笑顔で彼女に言った。

そう言うと、二人の男は振り返りもせずに立ち去った。

海野桜は少し躊躇した後、山田大川を引っ張って後を追った。

なぜか不安で、彼らが何か良くないことをしそうな気がした。

案の定、彼らはボクシングジムに向かった。

……

「バン!バン!バン!」

リングの上で、ヘッドギアとグローブを着けた二人は、容赦なく互いに攻撃を仕掛けていた。

一発一発が、相手を殺そうとしているかのようだった!

海野桜は恐ろしくて見ているのも辛かった。

「やめて!もう止めて!」思わず制止しようとした。

しかし二人は全く聞く耳を持たず、彼女がどれだけ叫んでも聞こえていないかのようだった。

まるで、どちらかが死ぬまで戦う勢いだった。

海野桜はますます疑問に思った。二人の間に一体何があったのか、なぜこれほどまでに憎み合っているのか?

「奥様、どうしましょう?社長の怪我はまだ治っていないのに、何か起きそうで…」山田大川は焦りながら言った。

確かに東山裕は、動きが遅くなってきている様子が見て取れた。

相良剛と同じように激しい動きを見せてはいたが、すでに劣勢に立たされていた。

それでも命知らずに相良剛を攻撃し続け、戦いを止める気配は全くなかった!

もちろん、相良剛も楽な戦いではなかった。

二人とも互いにボロボロになるまで殴り合っていた……

海野桜は何とも言えない苛立ちを覚え、不機嫌そうに山田大川に尋ねた。「出張に行ったんじゃなかったの?どうして戻ってきたの?!」

山田大川はため息をつきながら答えた。「確かに出張に行きましたが、飛行機を降りるとすぐに社長は帰りの便に乗ったんです」

「どうして?」海野桜は理解できなかった。

山田大川は躊躇いながら言った。「出発前から、社長は相良様があなたと会うことを知っていたんです……きっと、あなたのことが気になって仕方がなかったんでしょう」

「……」海野桜は少し驚き、東山裕を見つめながら、複雑な思いと苛立ちが入り混じった。