東山裕は躊躇いながら尋ねた。「どうした?北京ダックひとつも受け取れないのか?」
受け取れないわけではない。ただ気持ちが複雑なだけだ。
彼がわざわざ病院からここまで来たのは、ただ彼女に北京ダックを届けるためだけ?
彼女が近づかないのを見て、東山裕が車から降りようとすると、海野桜は仕方なく近寄って「私に渡して」と言った。
彼女が手を伸ばした瞬間、手首を彼に掴まれた。
「あっ...」海野桜の体は一瞬で引き寄せられ、広い胸に抱きしめられた。
東山裕は両手で彼女を抱きしめ、頬を彼女の頬にすり寄せた。
海野桜は驚いて「何をしているの?」と言った。
「動かないで、ちょっとだけ抱きしめさせて!」東山裕は腕に力を込め、彼女の香りを深く吸い込んだ。
海野桜は体を硬くして「もういいでしょう?警告するけど、私に手を出そうなんて考えないで!」