東山裕は躊躇いながら尋ねた。「どうした?北京ダックひとつも受け取れないのか?」
受け取れないわけではない。ただ気持ちが複雑なだけだ。
彼がわざわざ病院からここまで来たのは、ただ彼女に北京ダックを届けるためだけ?
彼女が近づかないのを見て、東山裕が車から降りようとすると、海野桜は仕方なく近寄って「私に渡して」と言った。
彼女が手を伸ばした瞬間、手首を彼に掴まれた。
「あっ...」海野桜の体は一瞬で引き寄せられ、広い胸に抱きしめられた。
東山裕は両手で彼女を抱きしめ、頬を彼女の頬にすり寄せた。
海野桜は驚いて「何をしているの?」と言った。
「動かないで、ちょっとだけ抱きしめさせて!」東山裕は腕に力を込め、彼女の香りを深く吸い込んだ。
海野桜は体を硬くして「もういいでしょう?警告するけど、私に手を出そうなんて考えないで!」
東山裕は彼女の言葉を聞いていないかのように、低い声で言った。「海野桜、本当に会いたかった。昨日から、ずっと今まで考えていて、我慢できなくなって来てしまった。」
海野桜は少し戸惑って「...」
「どうしよう、もう帰りたくない...」このまま永遠に抱きしめていたい。たとえ自分の考えがおかしくても、抑えられない。
彼女を愛する気持ちが好きだった。本当に幸せだった。
でも、その喜びには苦しみも伴っていた...
「海野桜、俺と一緒になろう!」東山裕は突然真剣な口調で言った。「もう一度結婚しよう、明日にでも!」
海野桜は突然彼を押しのけ、彼の言葉を完全に無視して、ただ冷たく「北京ダックを渡して!」と言った。
東山裕は少し戸惑い、彼女をじっと見つめて「本気だよ」と言った。
「渡さないなら、もういいわ」
そう言って立ち去ろうとする彼女を、東山裕は慌てて引き止め、箱を彼女の手に押し付けた。「はい、どうぞ」
しかし彼は手を離さず、海野桜は眉を上げて「北京ダックを渡したら帰るって言ったでしょう?もう手を離して帰っていいわよ」
東山裕は妖艶な笑みを浮かべて「じゃあ、今から食事に行かないか?俺が奢るから、何でも好きなものを食べていい」
「もう夕食は済んでるわ。お腹すいてない」
「じゃあ、川辺を散歩するか、どこかで遊ぶとか?」