すべてを、彼女は断りたかった。欲張りすぎるのが怖かったから。
「東山裕……」海野桜は向かいの男性を見つめながら、小さな声で呼びかけた。
「なに?」東山裕は口角を上げ、彼女が感動的な言葉を言うと思っていた。
しかし、彼女が言ったのは……
「橋本友香の家賃は、私があなたに支払います……断らないでください!」
東山裕は愕然とし、怒りを覚えた。「海野桜、さっきの私の話を一言も聞いていなかったのか?!」
海野桜は笑って言った。「あなたの気持ちはわかります。でも、これは私の原則なんです。お支払いしないと、心が落ち着きません。」
「落ち着かない?」東山裕は眉をひそめた。
「はい、今のところ、わざとあなたの好意に甘えたくないんです。私の気持ちを理解してください。」
東山裕は無表情で言った。「そう言うなら、浜田碧のことはどうやって返してくれるんだ?」