第272章 柴田治人、ありがとう!

海野桜はガラス窓越しに、意識を失って横たわる彼の姿を見て、また涙が込み上げてきた。

鴻野美鈴は病室の外で見守り続け、海野桜に「安心して、医者が言うには裕は大丈夫よ、きっと乗り越えられるわ」と声をかけた。

「うん!」海野桜は頷き、涙が頬を伝って落ちた。

鴻野美鈴は彼女の涙を拭い、包帯で巻かれた両手を取って、心配そうに「桜ちゃん、今回は大変だったわね...」と言った。

海野桜は気にしない様子で笑って「大丈夫です、ちょっとした怪我だけですから」と答えた。

「でも、あなたが裕のことを気にかけているのは分かるわ」

海野桜は再び東山裕を見つめた。

そう、彼女は彼のことが気になっていた。なぜなら、彼は唯一彼女の心に入り込んだ、唯一彼女の心を乱す男性だったから。

だから海野桜は決めた。今回東山裕が目を覚ましたら、彼とちゃんと一緒になろうと。