第308章 私はあなたを好きなふりができない

浜田統介は誰からの電話なのかを察していた。

彼は頷いた。「行きなさい。おじいさんのことは誰かが面倒を見てくれるから、心配しなくていいよ」

「おじいさん、どうかお体を大切にしてください。私は先に失礼します」海野桜は言い終わると、名残惜しそうに立ち去った。

東山裕からの電話はまだ鳴り続けていた。

海野桜は廊下で電話に出た。「今出ました。すぐに下に行きます」

エレベーターで下に降り、病院を出ると、彼女は一目で東山裕の車を見つけた。

背の高い男性が車のドアに寄りかかり、目を細めて空を見上げていた。横顔の輪郭は深みがあった。

特に彼の鼻は、高くて完璧で、まるでアジア人の血統とは思えないほどだった。

彼を見て、海野桜は思わず足を止めた。

東山裕はすぐに彼女に気付き、深い眼差しで微笑んだ。「こっちにおいで。乗りなさい」

「私は自分の車で来ているんです」と海野桜は言った。

「誰かに運転して帰らせておくから、早く来なさい」彼は彼女のためにドアを開け、低く落ち着いた心地よい声で言った。

海野桜は仕方なく近づいた。彼女が車に乗ろうとした時、東山裕が突然手を伸ばしてきた……

海野桜は反射的に身を引いたが、彼は単に彼女の乱れた髪を整えようとしただけだった。

男性の指は優しく、まなざしも優しかった。

「よし、乗りなさい」彼は微笑んだ。

海野桜は彼を一瞥し、何も感じることなく座った。

東山裕も反対側から乗り込み、車を発進させた。

「何が食べたい?」彼は彼女に尋ねた。

「どこでもいいです」海野桜は淡々と答えた。

「西洋料理はどう?」

「何でも構いません」海野桜は相変わらず無関心な態度で、本当にどうでもよかった。

東山裕の目が一瞬暗くなった。

彼は先日、海野桜との関係が良好だった頃を思い出した。二人で毎日何を食べようか相談していた。時には、わざと言い合いをすることもあった。

今思えば、あの時の関わり合いはとても楽しく、幸せな気持ちにさせてくれた。

しかし今は……

彼女の態度は、最初に離婚を迫っていた時よりも冷淡だった。

彼は彼女が自分を憎んでいることを知っていた。なぜなら、彼は本当に彼女の感情を利用したのだから……

彼はまた、彼女の心を取り戻すのが難しいことも分かっていた。でも構わない、彼女が自分の側にいる限り、まだ挽回のチャンスはある。