第310章 身内の人には礼儀は不要

海野桜は軽蔑的に笑った。「トイレに行っただけよ。吐き気がしたから!」

東山裕「……」

海野桜の去っていく後ろ姿を見つめながら、東山裕の目が暗くなった。

同時に後悔の念も感じていた。

さっき、自分は何を言っていたんだ?!

明らかにあれは本心ではなかったのに、どうしても制御できずに口に出してしまった。

これで、海野桜は彼のことをもっと嫌いになっただろう。

でも嫌われるのも、何の感情も持たれないよりはましだ……

東山裕は自分に言い聞かせるように考えた。

海野桜は今、確かに彼のことが大嫌いだった。

わざと洗面所で長居をして出てきたのに、廊下で人とぶつかってしまった!

「すみません!」海野桜は慌てて謝った。

相手は女性で、軽く目を上げて「大丈夫……です……」

女性は海野桜の姿を見るなり、少し戸惑ったような表情を見せた。

海野桜も相手の顔をはっきりと見て、なぜか見覚えがあるような気がした。ただ、どこで見たのかは分からなかった。

しかし彼女はちょっと不思議に思っただけで、申し訳なさそうに相手に微笑んで、その場を去った。

女性は彼女を見つめ続け、目には疑問が満ちていた。

「何を見てるんだ?」会計を済ませた高遠隆行が女性に近づいてきて、彼女の視線の先を追った。少し驚いて「知り合い?」と尋ねた。

女性は我に返り、「あなたが知ってるの?」

高遠隆行は笑って言った。「もちろん知ってるさ。クラスメイトみたいなものだよ。似てると思わない?最初に会った時から、君たちが似てるって気づいてたんだ」

女性は少し驚いて、思わず尋ねた。「彼女の名前は?」

「海野桜だよ」

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海野桜は席に戻ると、適当に食事を少し取って、ナイフとフォークを置いた。

「行きましょう。もう食べないわ」

東山裕は少し不満そうに「こんなに少ししか食べないのか?」

「お腹すいてないの」

東山裕もそれ以上は強要せず、ウェイターを呼んで会計を済ませ、二人で店を出た。

車に乗ると、海野桜は東山裕が婚姻届を出しに連れて行くと思っていた。しかし彼はそうせず、そのまま家に向かって車を走らせた。

海野桜は少し困惑した。てっきり、東山裕がすぐに再婚の手続きをすると思っていた。

でも、なぜしないの?

もしかして……