海野桜は分かっていた。彼の生死に関わるべきではないと。
彼らの間にも余計な接触があってはいけない。それが誰にとってもいいことだった。
でも、彼のこの状態を見て、放っておくことはできなかった。
海野桜は淡々と答えた。「上まで送るわ。途中で死なれたら困るでしょう?」
東山裕は思わず冷笑した。「海野桜、これは何のつもり?俺を心配してるのか?」
「……」
東山裕は手を引き、力なく言った。「残念だが必要ない!もう一度言うが、俺のことに首を突っ込むな!」
海野桜は眉をひそめ、むっとして問い詰めた。「東山裕、私とあなたは敵同士?そこまでする必要あるの?!私はあなたに悪いことなんて何もしてないわ!そうよ、あなたの言う通り、私はあなたのことに関わるべきじゃない。でも見て見ぬふりはできないでしょう。知らない人のふりもできない。それに、私があなたを助けるのは、心配してるからじゃなくて、良心が許さないからよ!今日はあなたじゃなくても、誰だって助けるわ!だから私の行動を誤解しないで。あなたはそれほど賢いんだから、私の助けが何も意味しないってことくらい分かるでしょう!」
東山裕の表情が一瞬にして暗くなった!
そう、彼は分かっていた。彼女の助けは何も意味しない。だからこそ必要なかった!
彼が必要としているのは、そんなことじゃない!
それは彼をより一層、憎しみで満たすだけだった……
そう思うと、東山裕の表情はさらに険しくなった。海野桜が彼が怒り出すと思った瞬間、彼は突然めまいを感じ、倒れそうになった!
「気をつけて――」海野桜は慌てて彼を支えたが、彼の体が大きすぎて、二人とも転びそうになった。
幸い、海野桜は全力で踏ん張って持ちこたえた。
東山裕は彼女に全身を預け、意識も朦朧としていた。海野桜は彼の様子を見て、もう余計なことは言わず、彼の腕を担いでエレベーターに向かった。
「何階に住んでるの?」エレベーターの前で、彼女は苦労しながら尋ねた。
東山裕は答えず、自分でボタンを押した。
彼は最上階に住んでいて、海野桜もそうだろうと推測した。
このマンションは各階一世帯で、面積も広く、最も価値があるのは最上階だった。屋上スペースを独占できるからだ。
海野桜はここに来たことがなく、これが初めてだった。