東山裕もそれを察したのか、すんなりと道を譲った。
海野桜は運転席に座り、パンと水を彼に投げ渡した。「やっぱり少し食べたほうがいいわよ!」
そう言うと彼を見ることもなく、車を発進させた。彼が食べるかどうかは、もう彼女にはどうしようもなかった。
とにかく、言うべきことは全て言った。
東山裕は彼女を一瞥し、ミネラルウォーターを取って数口飲んだ。
パンを食べなかったのは、わざと食べないのではなく、本当に食べる気がしなかったからだ。胃があまりにも痛く、食べると具合が悪くなる。
それに、彼はもうこれに慣れていた。この苦痛なしでは生きていけないとも言えるほどだった。
痛みがあるときだけ、自分が生きているという実感が持てた……
そう、彼は異常なほどこの苦痛に執着し、中毒になり、離れられなくなっていた。
特に海野桜が戻ってくる前は、一日たりともこの痛みから離れることができなかった。
今や彼女が戻ってきて、この痛みも麻痺したかのように、あまり感じなくなっていた。
彼はおそらく、もっと多くの苦痛が必要だった。常に目覚めていられるように……
東山裕は目を細めて苦しみ、朦朧としていた。しかし、どんなに痛くても、うめき声一つ出さなかった。
海野桜は時々彼を見やり、彼の苦しみを感じ取ることができた。
食べ物を勧めても食べないし、彼女にはどうすることもできず、ただ速度を上げて帰るしかなかった。
海野桜の運転は速かったが、幸いこの道は車が少なく、ある程度スピードを出すことができた。そうでなければ、彼女はそんなに速く運転する勇気はなかっただろう。
ガソリンスタンドを通り過ぎる時、薬を買おうと思ったが、隣のコンビニは閉まっていた。
海野桜は進み続けるしかなかった……
そして一時間余りの道のりを経て、ようやく市内に到着した。
海野桜がまずしなければならないことは、胃薬を買うことだった。
薬局を見つけると、すぐに車を止めて東山裕に尋ねた。「普段どんな薬を飲んでいるの?」
東山裕は目を開いたが、彼女の言葉の意味を理解していないようだった。
海野桜はもう一度尋ねた。「東山裕、薬を買いに行くわ。普段どんな胃薬を飲んでいるの?」
男はようやく彼女の言葉を理解したようだが、漆黒の瞳が不思議なほど鋭くなり、表情も冷たくなった。「必要ない、そのまま帰れ!」