第373章 彼のことが忘れられない

海野桜は彼女の質問に不意を突かれ、一瞬戸惑ってしまった!

鴻野美鈴の確固とした眼差しに、海野桜は口を開いたものの、どう答えていいのか全く分からなかった。

「実は、もう愛していないのでしょう?」鴻野美鈴が再び尋ねた。

海野桜は少し沈黙してから答えた。「奥様、私と東山裕の間には、たくさんのことがありすぎて……」

「だから、もう過去には戻れないということ?」

「……」彼女には分からなかった。

今の彼らはお互いに距離を置いているから。彼は彼女を忘れようとし、彼女も彼を忘れることを固く決意していた。

彼は彼女を傷つけ、彼女も彼を傷つけた……

一度つけられた傷は、突然気にしないと言っても消えるものではない。

とにかく海野桜にも何と言えばいいのか分からなかった。彼女と東山裕の今の関係は微妙すぎて、部外者には理解できないものだった。

しかし鴻野美鈴は経験者で、彼女の気持ちを理解しているようだった。

「桜さん、愛していないなら、十分な愛がないのなら、裕に希望を持たせないで。私の息子は、もうこれ以上傷つくことに耐えられないの。だから、あなたの気持ちが確固としていないなら、絶対に彼に希望を持たせないで。これが母親としての、あなたへの最大のお願いです。」

そう言い終えると、鴻野美鈴は立ち去った。

……

海野桜は一人で庭園に長い間座っていた。

彼女は自分が何を考えているのか分からなかったし、これからの道をどう進むべきかも分からなかった。でも東山裕の母親の言うとおりだった。十分な愛がないなら、彼に希望を持たせるべきではない。

なぜなら、不安定な愛は、いつかは必ず傷つけることになるから。

かつての東山裕が彼女を愛したように。でもその愛は不安定で、結局彼は彼女を傷つけることをしてしまった。

だから彼女は同じ過ちを繰り返さない。

そして、今の彼らは誰も傷つくことに耐えられないから。

絶対的な愛でなければ、彼らは触れ合うことすら恐れているのだから……

でも、彼女は気づいてしまった。もう彼のことを忘れるのは難しいということに。全てを投げ打って愛することもできず、完全に手放すこともできず、自分が狂ってしまいそうだった!

なぜこうなってしまったのか、いつから彼女はこんなに悩むようになったのか?!

海野桜は突然心が乱れ、感情のことで途方に暮れてしまった……