第394章 東山坊様が深く愛しているから

「お嬢様、辛いのですか？」彼女は隣に座って尋ねた。

海野桜は急に反論した。「いいえ！私が辛いはずがないわ。辛くなる理由なんてないもの！」

しかし、彼女が否定すればするほど、疑わしく思えた。

張本家政婦はため息をつきながら言った。「お嬢様、これまでの長い年月、お二人の間のことは全て見てきました。私ほどお二人の関係を理解している人はいないと思います。正直におっしゃってください。お嬢様の心の中にはまだ東山坊様がいらっしゃるのではありませんか？」

「……」海野桜は反論しようとしたが、言葉が喉まで出かかって出てこなかった。

彼女はイライラしながら顔をこすりながら言った。「張本さん、私って情けないわよね？はっきりと誓ったはずなのに、もう二度と彼のことを好きにならないって。でも、どうして、いつも失敗してしまうの？張本さん、分からないでしょうけど、私自身も分からないの。どうしてこんな風になってしまったのか、こんなにも優柔不断になってしまって。私は自分が本当に嫌になるわ！」

「なぜ嫌いになるのですか？」張本家政婦は不思議そうに尋ねた。

海野桜は苦しそうに言った。「だって、私はいつも自分の立場をしっかりと守れないから……」

愛していないと言いながら、また少しずつ好きになってしまう。好きになっても、愛することを恐れている。

いつからこんなに優柔不断で臆病になってしまったのだろう？

「それは東山坊様がとても愛しているからこそ、お嬢様の心が揺らいでいるのでしょう」と張本家政婦は突然言った。

海野桜は驚き、呆然と彼女を見つめた。「今なんて？」

張本家政婦は微笑んで言った。「お嬢様、私にはあなた方の恋愛のことは分かりませんが、お嬢様のことはよく分かっています。小さい頃から、一度決めたことは最後まで貫き通す方でした。もし本当に東山坊様のことを愛していないのなら、二度と振り返ることはないはずです。でも、心が揺らぐのは、彼の全ての行動があなたの心を動かし、感動させるからです。思い切って好きになれないのも、傷つくことを恐れているからです。でも、本当は彼のことが好きで、忘れられないのです……」

張本家政婦の言葉は、彼女の心の琴線に触れた。

そう、愛することができないのは、怖いからだ。

そして、安心感がないからだ。