張本家政婦は片手で荷物を持ち、もう片方の手で彼女を引っ張りながら、階段を上がっていった。
そうして海野桜は、この古い屋敷に住むことになった。
やはり自分の家が一番いい。誰も彼女をいじめることはないし、辛くなっても離れることを考える必要もない。
ここは彼女の永遠の家なのだから。
でも、この家も伯父さんに売られてしまった。
海野桜はそのことを思い出すと、また悲しくなった。そして突然、おじいちゃんが恋しくなった。おじいちゃんがいてくれたらいいのに。
考えているうちに、ふと東山裕のことを思い出した。
彼のことを考えると、さらに辛くなった。
でも、彼らは別れたということになるのだろう。彼女がここに戻って来てから2日経つのに、彼は一度も連絡してこなかった。
本当に彼女を諦めて、もう気にかけないつもりなのだろう。
海野桜は時々思う。東山裕との関係にこんなに疲れているのだから、お互いに諦めた方がいいのかもしれない。
でも時々、なぜか名残惜しく感じる……
本当に、また彼のことを好きになってしまったのだろうか?
海野桜にはまだ信じられない気持ちだった。どうしてこんなことになったのだろう?
前世で死をもって誓った、二度と愛さないはずの男性を、今世でまた好きになってしまうなんて。
海野桜、しっかりしなさい!
海野桜が枕で頭を叩いているとき、突然ドアの外から張本家政婦の声が聞こえてきた。「お嬢様、早く出てきてください!誰が来たか見てください!」
海野桜の心臓が激しく乱れた。
東山裕?
「お嬢様、相良様がいらっしゃいました!」張本家政婦は嬉しそうに言った。
海野桜は少し驚いた。相良剛?どうして来たのだろう?
前回、海野桜が誘拐された後、相良剛は彼女にメッセージを送り、彼女の様子を尋ねた。
彼女は返信したが、彼からの返信はなかった。
海野桜は、もう彼から積極的に連絡は来ないだろうと思っていた。だから彼が来たと聞いて、意外に思った。
海野桜はすぐに階下に降りて行き、応接間に座っている相良剛を見た。
彼はカジュアルな服装をしていたが、なぜか海野桜には彼の雰囲気が少し暗く感じられた。
相良剛は彼女の足音を聞くと、すぐに彼女の方を向いた。
「相良兄、どうしてここに?」海野桜はすぐに笑顔で尋ね、彼の横に座った。