前々日の夜、彼と海野桜が一緒にいる姿を見るまで、彼が全ての人に冷たいわけではないことを彼女は知らなかった。
彼にも他人に対して熱情的に接する時があるのだ。
ただ残念なことに、その相手は他の女性だった……
来栖雅は彼らの車が遠ざかる姿を見つめながら、心が抑えきれないほど暗くなっていくのを感じた。
車の中で、海野桜は不思議そうに東山裕に尋ねた。「あの人は誰?あなたの友達?」
「ああ、横浜市の友人だよ」東山裕はうなずき、それから別の話題に移った。「今回は選挙に勝てなかったから、友人に助けを求めるつもりだ」
来栖雅は、彼が助けを求めるために呼んだ人物だった。
海野桜はずっと彼が選ばれたかどうか聞く勇気がなかった。一つには彼の面子を潰したくなかったから、もう一つは失望するのが怖かったからだ。
そして案の定、彼は選ばれていなかった……
海野桜は笑って言った。「大丈夫よ、他の方法を考えればいいわ。どうせ方法はたくさんあるし、これだけが唯一の道じゃないわ」
東山裕は彼女の体を抱き寄せ、彼女の顎を上げて、直接尋ねた。「俺を信じてるか?」
海野桜は考えもせずに頷いた。「信じてる!」
東山裕は口元を緩めた。「なら何も心配するな。すべて俺に任せておけ!」
海野桜は不満そうに言った。「何も知らないままにしないでよ。私は蚊帳の外に置かれるのは好きじゃないわ」
「安心しろ、話すべきことは全て話す。ただ俺を信じてくれればいい!」
「わかった!」海野桜は笑顔を見せたが、すぐに福岡市に戻ることを思い出すと、また笑えなくなった。「帰ったら、今回のことをどう処理するつもり?私はよく分からないけど、影響はかなり大きいってことは分かるわ」
東山家の信用は常に良好だった。
しかし今回はスキャンダルを起こしてしまった。
東山裕が粗悪な工事を自ら行い、その目的が一人の女性を手に入れるための計画だったという。これほど深刻な行為は、東山家全体を破滅させかねないものだった。
東山裕がこの問題を解決できなければ、今後誰が彼らと協力するだろうか。
もし彼がまた工事を軽く扱ったら……
とにかく、今回の件は非常に深刻だった!
しかし東山裕はまったく焦っている様子もなく、むしろ余裕で彼女に尋ね返した。「もし俺が破産したら、それでも俺を愛してくれるか?」