東山裕は口元を緩め、彼女の鼻をつまんだ。「君のそういうところが好きだよ」
海野桜は首を傾げた。彼女のどういうところ?
「妻らしいところさ。俺の、東山裕の妻らしいところが」
そう言うと、東山裕は立ち去り、海野桜はベッドに座ったまましばらく呆然としていた。
さっきの彼女の行動は、妻らしかったのだろうか?
海野桜はそのことを考えると、思わず笑みがこぼれた。しかし東山裕が今直面している困難を思うと、笑顔は消えた。
早くこの難局を乗り越えられますように……
東山裕が去った後、海野桜の心も一緒に持っていかれたようだった。
何をしても集中できず、ずっと家で彼の帰りを待っていた。
夕食の時間になっても東山裕は帰ってこなかった。夜が更けても、まだ帰ってこなかった。
しかし彼から電話がかかってきた。海野桜は彼からの電話だと分かると、急いで出た。「もしもし、東山裕」