誰が知るだろう、東山裕はまったく気にせず、口元を上げて笑いながら言った。「その通り、私の幸運だ」
来栖研吾は少し驚き、そして彼は理解した。東山裕は本当に海野桜のことが好きなのだと。
そうでなければ、彼のような人間がこんな言葉を口にするはずがない。
だからこそ、あの時彼が浜田家のためにあれほど必死になったのも無理はない。
来栖研吾はもう少し彼らと話した後、立ち上がって帰ろうとした。
海野桜は急いで言った。「来栖兄、食事をしてから帰りませんか。もうすぐ昼食の時間です」
浜田統介も引き留めた。「研吾よ、君は長い間私の世話をしてくれただけでなく、私を家まで送り届けてくれた。私はまだ君に十分な感謝もしていないのに、せめて食事をしてから帰ってくれないか」
来栖研吾は笑いながら断った。「先生、食事は遠慮させていただきます。用事があって、今すぐ出なければならないのです。また機会があれば、改めてお伺いします」
そして海野桜と浜田統介がどれほど引き留めても、彼はやはり去ろうとした。
東山裕は低い声で言った。「彼を見送ってくる。桜、おじいさんとゆっくり過ごしていなさい」
「はい」海野桜はうなずき、来栖研吾に手を振った。「来栖兄、お気をつけて。次の機会には、ぜひうちに遊びに来てくださいね!」
「わかりました」来栖研吾は微笑んで、東山裕と一緒に外へ出て行った。
しかしすぐに、海野桜は来栖研吾のライターがテーブルの上に落ちていて、持っていくのを忘れたことに気づいた。
彼女は不思議に思いながら尋ねた。「おじいさん、これはおじいさんのですか、それとも来栖兄のですか?」
浜田統介は一目見て来栖研吾のものだと言った。
「彼はきっとまだ行っていないわ、届けてくる!」海野桜はライターを手に取り、急いで外へ飛び出した。
しかし、彼女が玄関を出ようとしたとき、突然、外に立っている来栖研吾と東山裕の会話が聞こえてきた。
来栖研吾が低い声で尋ねた。「この間ずっと、来栖雅が君のことを話していたけど、いつ横浜市に来るつもりだ?」
この言葉を聞いて、海野桜の足は急に止まった!
来栖雅って誰?
東山裕はさらりと言った。「時間があればな」
「でも来栖雅が言うには…」
「俺のことは構うな」東山裕の一言で来栖研吾の続きの言葉は遮られた。