海野桜は少し困った様子で言った。「10分では足りないかもしれないけど…」
「じゃあ、中に入って探すよ!」東山裕はまばたきもせずに言った。
海野桜:「……」
彼女はやはり10分以内に急いで出てきた方がいいだろう。東山裕が中に入ってきたら、我慢するしかない!
海野桜は急いでトイレに行き、東山裕はオフィスデスクに座って、カウントダウンを始めた。
実は彼もこんなに用心深くしたくはなかった。
今日はどうしたことか、少し落ち着かない気分だった。
おそらくここ数日の緊張が、今になって疲労反応として現れているのだろう。
東山裕がそう考えていると、突然めまいを感じた。
次の瞬間、脳に鋭い痛みが走った——
目の前が一瞬真っ暗になった。
東山裕は深呼吸をして、こめかみをさすると、頭がだんだんはっきりしてきた。
しかし机の上の時計を見ると、なんと15分も経っていた!
海野桜がトイレに行ってから今まで、すでに10分を超えていた!
東山裕は急に立ち上がり、休憩室のトイレに駆け込んだ。
トイレのドアは内側から鍵がかかっていた。東山裕は強くノックして、低い声で叫んだ。「海野桜——」
中からは何の反応もなかった。
東山裕の心は沈んだ。彼は一歩下がり、思い切り足でドアを蹴り開けた!
「バン!」ドアが壁にぶつかり、大きな音を立てたが、中は空っぽで、誰もいなかった。
海野桜がいない……
中に海野桜はおらず、海野桜が消えた!
東山裕は瞬時に慌てふためいた……
海野桜は東山輝昭の手下によって、トイレの天井にある換気口から連れ去られていた。
彼らはずっとそこに潜んでおり、海野桜を捕まえるチャンスを待っていたのだ。
海野桜を気絶させた後、彼らは彼女を屋上に連れて行き、ヘリコプターで逃げた。
東山裕が気づいた時には、ヘリコプターはすでに飛び去っていた。東山裕がすぐに警察に通報して捜索しても、もう手遅れだった。
東山輝昭は経路を綿密に研究し、計画は周到で、誰にも気づかれずに海野桜を連れ去った。
しかも非常に慎重だった。
ここ数日、海野桜の身体には常に追跡装置が付けられていた。万が一のことがあった時に、東山裕が彼女を見つけられるようにするためだ。
しかし、東山輝昭は海野桜を捕まえるとすぐに、彼女の身体から追跡装置を取り除いてしまった!