境界線を持つべき

幸い、卓は長時間立ちっぱなしでいる必要はなく、最後のゲストが現場に到着した。

粟は来た人を見た瞬間、顔を横に向けた。

一日のうちに二匹のハエを見るのは、本当に不快で、吐き気がするほどだった。

常がこのバラエティ番組に参加することに、多くの人が驚いていた。

常がデビューして以来、彼はあらゆるバラエティ番組への出演を拒否し、演技の研鑽にのみ専念していた。この点については、粟も認めざるを得なかった。

彼の懸命な努力の結果、ついに二十五歳でその年の最優秀男優賞に選ばれ、史上最年少の最優秀男優賞となった。

彼がこの番組に参加したのは、林監督と番組自体が掲げる「俗世に身を置きながら、心は桃源郷に」というテーマに関係があるが、粟は美緒とも無関係ではないと推測していた。

常が到着すると、他のゲストたちは次々と挨拶に行ったが、一馬と粟だけはまるで足が接着剤で固まったかのように動かず、言葉を交わすこともなかった。

常は皆と挨拶を交わした後、無意識に粟に目を向けたが、彼女はまるで気づいていないかのように振る舞い、それが常には大きなショックを与えた。

元々彼は、粟が彼をブロックして削除したのは、わざと彼の注意を引こうとする策略だと思い込んでいた。女性は、時に自分の価値を示すために、少しわがままを言うものだと。

来る前から彼は考えていた。もし粟が先に折れて謝ってくれば、最近の彼女の行動を許すつもりだった。しかし、予想に反して、頭を下げるどころか、目すら合わせてくれなかった。

これが彼の心に怒りを引き起こした。時々の小さな駆け引きは恋愛の駆け引きに過ぎない。しかし、いつまでもそれを続けるのは、粟が引き際を知らないことを意味している。

「粟、常兄さんとは幼なじみでしょ?挨拶もせずに一人で立っているなんて、みんながあなたを仲間外れにしていると思うかもしれないわよ」

美緒は常の視線の先を追って粟を見つめ、思わず指を握りしめた。

この女は本当に気に入らない。突然現れて、まるで自分の周りの人々をすべて奪おうとしているように感じる。

粟はその言葉を聞いて眉をひそめ、不快感が顔に浮かぶのを隠せず、美緒をじっと見つめた。

美緒の言葉は彼女を風当たりの強い立場に追いやるものだった。番組が放送された後、ネット上で常のファンたちが再び彼女を叩くことが目に見えており、そのことが粟にとっては気の毒でならなかった。

「申し訳ないけど、私とあなたは親しくないの。矢崎さんと呼んでいただける?」

粟は横目で常を見やった。彼はまるで美緒の言葉に同意しているかのように、粟が話しかけてくるのをじっと待っているような表情を浮かべていた。

「私と彼は、ただ何年か隣に住んでいただけよ。最優秀男優の幼なじみだなんて、私には似合わない称号だわ。それより、常兄さんって呼んでるあなたの方が、よっぽど親しそうね」

美緒は粟の言葉に返す言葉が見つからず、顔を真っ赤に染めた。一方で常も、耳がじわりと熱くなるのを感じていた。先ほど粟が自分に目を向けたとき、彼女がついに謝りに来ると思っていた。しかし彼女は、あっさりと二人の関係をただの隣人と切り捨てたのだ。

「美緒は礼儀として言っただけだろう。そこまで噛みつく必要があるか?」本来なら彼の後をしつこく追い回していたのはあの女のはずなのに、その矛盾が、さらに彼の苛立ちを煽った。

「あなたがそう思うなら、それで構わないわ。私も、ただ事実を述べただけ。それに、個人的なことだけど、親しくもない人に馴れ馴れしく呼ばれるのは正直気持ち悪いの。そういう距離感は、ちゃんと尊重してほしいわね」

粟は、わざとらしい態度を取るつもりなどなかった。この発言が放送されれば、きっと大きな議論を呼ぶ。それは分かっていた。けれど、リアリティショーの中で「キャラクター」を演じる気はなかった。いつ本性が出るか分からない環境の中で、偽りの自分を保ち続けるなんて、彼女には到底できそうになかった。

「その通りだ。人にはちゃんとした境界線が必要だ。初対面でいきなり親しいふりをして、姉さんや兄さんなんて呼ぶのは、相手を不快にさせる行為だって、いい加減気づくべきだろう」

ずっと黙っていた一馬が、突然声を上げた。粟の言葉に強く共感し、美緒が初対面で「一馬兄さん」と呼びかけてきたときのことを思い出したのだ。あの時、思わず怒鳴りつけそうになった自分の感情まで、蘇ってくる。

一馬が粟をかばったのを見て、他の三人は黙ったままだった。芸能界での彼の影響力は大きく、軽々しく敵に回せる相手ではなかった。

一方、美緒は憎しみに満ちた目で一馬を見つめていた。粟よりもずっと前から彼を知り、懸命に振り向かせようとしてきたのに、彼は初対面の粟の味方をしたのだった。

一馬が粟を支持するたびに、美緒の心の中で彼を手に入れたいという気持ちがますます強くなった。それは、単なる欲望を超えて、彼女にとっては絶対に譲れないものになっていた。