矢崎若菜は長い間待っていたが、時々横目で矢崎粟の方を見ていると、彼女には食事を届ける気配が全くないことに気づいた。
山の方から時折吹く風が、矢崎粟たちの食事の香りを彼らの方へ運んできて、二人とも思わず唾を飲み込んだ。
「若菜、私たちから向こうに行ってみない?他人が作った料理を持ってきてもらうのを待つなんて、よくないんじゃない?だから彼女たちが怒って、私たちに食べさせないつもりなのかな?」矢野常は肘で矢崎若菜を軽く突きながら、二人だけに聞こえる小さな声で尋ねた。
「当然、彼女が持ってくるべきだよ。それが彼女の役目だから。」
矢野常は言葉を失い、なぜか矢崎若菜に対する嫌悪感が心の中に湧き上がってきた。しかし、空腹感と痙攣し始めた胃の具合で、矢崎若菜のことにこれ以上時間を無駄にする余裕はなかった。彼が行かないなら、自分で行くしかない。
「あの、矢崎粟さん、私たちの分はどこ?直接私に渡してくれれば、持って行きますから。」
矢野常が来たことに矢崎粟は気づいており、彼の目的も大体わかっていた。
彼女は顔を上げ、大きな器を抱えながら、無邪気で誠実な眼差しで、まるで矢野常がなぜそんな質問をするのか理解できないかのように答えた。「あなたたちのお昼ご飯なら、もちろん矢崎美緒たちに聞いてください。私は私たちのグループの分だけ担当してますから。」
矢野常は彼女の返事を聞いて、矢崎美緒の二人が一緒に戻ってきていなかったことを突然思い出した。最初は二人が家でサボっているのだと思っていたが、どうやら彼女たちの計画は失敗したようだった。
小島一馬たちも顔を上げて矢野常をじっと見つめており、まるで幾本もの刃物のように、矢野常は居心地が悪くなり、早く逃げ出したくなった。
「申し訳ありません。その、その、美緒たちが戻ってきていなかったので、皆さんに頼んで一緒に持ってきてもらったのかと思って。」言い終わると、彼は皆の返事を待たずに、急いで矢崎若菜の元へ戻った。
矢崎若菜は彼が手ぶらで戻ってきたのを見て、目に疑問を浮かべた。「お昼ご飯は?」
「美緒たちが作ってるんじゃないかな。」矢野常の声にはまだ気まずさが残っていた。