012 住吉おばさん

矢崎美緒と岡田淳はまだ林監督と交渉を続けていた。日が暮れてきて、彼女たちは自分たちで歩いて行きたくなかった。

矢崎美緒は振り向いて矢崎粟も一緒に説得しようとした。人数が多ければ力も大きくなるし、もし出演者全員が同じ意見なら、監督も皆の意見を考慮せざるを得ないだろう。

しかし振り向くと、矢崎粟はすでにスーツケースを持って村の方向へ歩き出していた。

矢崎粟の考えは単純だった。制作チームが理由もなくこんな設定をするはずがない。本当に出演者たちにこんなに遠くまで歩かせるだろうか?きっと途中で何かの試練やテストがあり、交通手段が用意されているはずだ。

たとえなかったとしても、その場に立ち止まっているよりも、まず歩き出した方がいい。村への道を歩いていれば、村人に会える確率も高くなるはずだ。

森田輝は矢崎粟が出発したのを見て、少し考えてから追いかけた。西に傾いていく太陽を見て、心の中では焦っていたが、制作チームが譲歩するはずがないことも分かっていた。ここで無駄な言い争いをする必要はない。

「粟、待って。私も一緒に行くわ。」

森田輝のスーツケースはとても大きく、背中にはギターも背負っていた。彼女は小柄な体格で、矢崎粟は彼女がつまずきながら自分の方へ走ってくるのを見て、この子が次の瞬間に重みに耐えきれなくなって倒れてしまわないかと心配になった。

「ギター、持ってあげようか?」

矢崎粟は服を数着しか持ってこなかった。化粧品もほとんど持ってきていない。結局、番組では農作業をすることになるのだから、毎日おしゃれをしている暇なんてないだろう。

「大丈夫、大丈夫。自分で持てるわ。こんな見た目だけど、私、結構力持ちなの。」森田輝はそう言いながら、手に持ったスーツケースを少し持ち上げてみせた。矢崎粟は思わず微笑んでしまった。

小島一馬と伊藤卓もスーツケースを持って村の方向へ歩き出した。

矢崎美緒は皆が歩き出すのを見て、少し慌てて岡田淳の手を引っ張った。「私たちも行きましょう。このままじゃ暗くなっちゃう。」

岡田淳は歩いて行く数人を一瞥し、心の中で冷笑した。

「大丈夫よ。ハイヒールで彼らと一緒に歩く必要なんてないわ。制作チームが私たちを置き去りにするわけないでしょう。だから私たちが粘れば、きっと後でクルマに乗れるはずよ。」

矢崎美緒は少し考えて、岡田淳の言うことにもっともな点があると思った。結局、彼らは出演者で、しかも女性だ。制作チームは影響を考慮して、最終的には妥協するはずだ。そのため、もう何も言わず、ただ岡田淳を待つような態度を見せた。

結局、うまくいけば車に乗れるし、失敗しても自分が苦労を厭うわけではなく、ただ友達を置いていけなかっただけということになる。

矢崎美緒が動かなかったので、矢野常もその場に留まった。

一方、矢崎粟たちは村へ続くコンクリートの道を歩いていた。しばらく歩くと、スイカを売っているおばあさんを見かけた。編んだ麦わら帽子をかぶり、リヤカーを押していて、その上にはたくさんのスイカが載っていた。コンクリートの道にもスイカが散らばっていた。

矢崎粟は胸が躍った。来た。

彼女は前に進み出て尋ねた。「おばあさん、どうしたんですか?」

住吉おばさんの標準語は流暢ではなく、地元の濃い訛りがあった。矢崎粟は彼女の言葉を理解するのに苦労した。

話を聞くと、おばあさんはスイカを売りに出かけたものの、今日は商売がうまくいかず、スイカを全く売れずに帰ることになった。ところが、この斜面にさしかかったとき、坂が急すぎてリヤカーが重すぎたため、何度か試みたものの、上がれないどころか、スイカが地面に落ちてしまったのだという。

それを聞いた矢崎粟は、スーツケースを置いて、しゃがんでおばあさんと一緒にスイカを拾い始めた。

森田輝は空を見上げて唇を噛んだ後、同じようにしゃがんで手伝い始めた。

小島一馬も躊躇することなく、黙々と手伝い始めた。

一方、伊藤卓は空を見上げ、すでに手伝い始めた三人を見て、三人もいれば十分だろうと考え、一言断って先に歩き続けた。車に出会えることを期待して。牛車でも構わないと思いながら。

矢崎粟は何も言わなかった。それぞれに選択があり、他人に手伝いを強制するつもりはなかった。

数人でおばあさんを手伝い、まだ傷んでいないスイカを拾い集めて再び積み込んだ。それから小島一馬が前でリヤカーを引き、三人の女性が後ろから押した。

かなりの力を使って、やっと大きなリヤカーいっぱいのスイカを坂の上まで安全に押し上げることができた。

リヤカーが坂を上がりきったとき、遠くから「ぶるぶるぶる」という音が聞こえてきた。すぐに30代くらいの男性がトラクターを運転してやってくるのが見えた。

住吉おばさんは運転している若者に手を振り、それから矢崎粟たちの方を向いて言った。「あれは私の息子で、私を迎えに来たのよ。よかったら皆さんも乗っていきませんか?」