034 自重してください

「粟、もうやめてくれないか」

矢野常は疲れ切った様子で、ここ数日間、矢崎粟が何を騒いでいるのか分からなかった。知らない人のようなふりをし、今日は小島一馬とあんなに親しげにしていた。

「お兄さん、はっきりさせておきますが、今邪魔をしているのはあなたの方です」

前世でそう非難されることが多すぎたせいか、矢崎粟は「もうやめて」という言葉が一番嫌いだった。だから矢野常が口を開いた途端、単なる嫌悪感から怒りへと変わっていった。

「どいて」矢崎粟は冷たく言った。

「粟、僕たちの間には誤解が多すぎる。君が対話を拒否し続けているのは、問題解決の妨げになっているよ」矢野常は口調を和らげたが、どく気配は全くなかった。

彼は今の矢崎粟を、若い女性によくある症状だと考えていた。自分に頭を下げて機嫌を取ってほしいのだろうと。