061 あなたの心配は無用

みんなはまだ矢崎美緒をからかい切れないうちに、場違いなコメントで話題が逸れてしまった。

【さっきの矢崎若菜の言葉はどういう意味?なぜ矢崎粟が自分の味方になると思ったの?】

【以前、矢崎粟と矢崎若菜が二人きりでいる写真が記者にスクープされたことがあったよね。】

【なるほど、二人の関係はただものじゃないはず!】

ネットユーザーたちは次々と考えを巡らせ始めた。

【もしかして二人は以前、何かあったの?】

【上のコメントの推測だと、番組の始めから矢崎粟は矢崎若菜と対立的な立場だったよね。もしかして矢崎若菜に振られたとか?】

【驚いた!!矢崎粟は妹控えの元カノだったの?だから先ほどみんなが言っていた、矢崎若菜が妹のために彼女を責めたシーンって、本当にあったの?】

【みんな、まだ結論を出さない方がいいと思う。二人はそういう関係には見えないよ。】

【私もそう思う。最初から矢崎若菜が矢崎粟に近づこうとしていたように見えたけど、むしろ矢崎粟が矢崎若菜を振ったように見える。】

みんなの考えはどんどん脱線していき、最後には矢崎粟が、より優秀な小島一馬のために矢崎若菜を捨てたのではないかと推測する人まで現れた。

矢崎弘は自社のオフィスで画面のコメントを見ながら、額の血管を脈打たせていた。

「何なんだ、この茶番は!」矢崎弘の怒りに満ちた声に、傍らの秘書は震え上がった。

秘書は恐る恐る尋ねた。「矢崎社長、広報に対応を指示しましょうか?」

矢崎弘は冷静になって少し考えてから、頷いた。「そうだな。矢崎若菜には恋愛経験がなく、好きな人もいないということを明確にさせろ!」

矢崎弘だけでなく、多くのエンターテインメント記者たちもコメントに問題を見出していた。

ネットユーザーたちの想像力豊かなコメントから、彼らは矢崎若菜と矢崎粟の間に、深く掘り下げる価値のある関係があると直感的に感じ取っていた。

しかも、その関係が明らかになれば、間違いなく超大型スクープになるはずだった!

多くのエンターテインメント報道会社が、コネを使って矢崎若菜と矢崎粟の経歴や背景を調査し始めた。

もちろん、矢崎家を後ろ盾に持つ矢崎若菜に比べ、芸能事務所も後ろ盾もない矢崎粟という可哀想な存在に、記者たちは一斉に照準を合わせた。

しかし矢崎粟はそんなことも知らず、小島一馬と演技を続けていた。