060 バカシスコン

ゲストたちの言い争いを見て、林監督は顔がほころびそうだった。

言い争いは良いことだ。口論があるということは見どころがあり、それは話題性があるということを意味する。

バラエティ番組を制作する側として最も望むのは、ゲストが自ら話題性を持ってくることだ。それができないなら、話題を作り出すのも良い。誰がバラエティは全員が団結しなければならないと決めたのか?

対立があってこそ現実味がある。

今、矢崎粟が少し攻撃的に見えても、林監督は彼女が間違っているとは思わなかった。

彼女が自分の妹と剛士を救ってくれた時から、林監督は矢崎粟が賢く理性的な人物で、個人的な好き嫌いで他人に理不尽な態度を取ることはないと分かっていた。

番組開始時から彼女が矢崎兄妹と矢野常に対立する立場を取ったのは、きっと彼ら三人が彼女の許せない何かをしたからに違いない。

林監督は矢崎粟がこれを注目を集めるためにやっているとは思わなかった。芸能界で這いずり回って得た経験から、この件は後で必ず展開があり、しかもその展開の衝撃度は低くないはずだと確信していた。

最終的な結果がどうなろうと、番組にとってはこれは話題性とアクセス数につながる。彼は止めるどころか、むしろ火に油を注ぎたいと思っていた。

番組の生放送のコメント欄は既に小島一馬のファンによって占領されており、多くの一般視聴者も小島一馬の予想外のパフォーマンスを見て、コメント欄で騒ぎ立てていた。

【この兄妹は一人は脳なし、もう一人は偽善者!矢崎美緒のこの売女のくせに貞節を装うやり方、かなり手慣れてるね!】

【言わざるを得ないけど、小島一馬が今まで芸能界に入ってなかったのは本当にもったいない。さっきの矢崎美緒の真似なんて、あまりにも生き生きとしてたよ!】

【なんか既視感があると思ったら、小島一馬が真似てたのは矢崎美緒だったんだ!】

【この矢崎美緒姫は明らかに人の餃子が欲しかっただけなのに、見破られても認めず、人のことを考えてるふりして道徳的に縛ろうとする。矢崎美緒のこういうやり方は手慣れてる、前からよくやってたんだろうね。】

【矢崎の歌の神様のこの態度は、良く言えば妹を守ってるけど、悪く言えば善悪も分からず、無脳に身内を庇ってるだけ。】