080 食中毒

今日、矢崎粟は早めに休んでいたが、真夜中に庭から聞こえた嘔吐の音で目が覚めた。

外に出てみると、矢崎若菜がゴミ箱を抱えて庭の石のベンチに座り、激しく吐いていた。やっと吐き終わって数秒も経たないうちに、また空嘔吐を始めた。

矢崎粟は静かに矢崎若菜の繰り返される嘔吐を見ていたが、最後にはその騒がしさに耐えかね、近寄って矢崎若菜の右手に触れ、脈を診た。

「食べてはいけないものを食べたのね。軽い食中毒よ」矢崎粟の声は静かだった。

突然の声と手首の感触に、嘔吐に集中していた矢崎若菜は驚いた。

普段なら、矢崎若菜は必ず大声で叱りつけていただろう。しかし今は何故か、矢崎粟の美しいが無表情な顔を見ていると、叱りつける言葉が出てこなかった。

「ありがとう」最後に矢崎若菜は珍しく矢崎粟に礼を言った。