しかし、今配信中なので、前回の出来事が再び起こるのを避けるためでなければ、矢崎粟を抱きしめて慰めたいところだった。
「以前、番組側は一位を獲得したグループに一つの要望を出せると約束しました」と林監督は矢崎粟を見ながら言った。「では、一位となった皆さんは、どんな要望を出すか決まりましたか?」
その言葉を聞いて、矢崎粟たち三人は一斉に伊藤卓の方を向いた。
彼ら四人は既に事前に相談していた。一位を獲得したら、最年長の伊藤卓に彼らの要望を伝えてもらうことにしていたのだ。
これは後輩たちから伊藤卓への贈り物でもあり、できるだけ多くの注目を集めてもらいたいという思いが込められていた。
「私たちは既に相談済みです。一位を獲得したら、番組側に村の学校へ本や教材を寄付してもらいたいと思います」伊藤卓は温かな笑顔を浮かべながら、カメラに向かって四人の要望を伝えた。「子供たちはみんな勉強熱心です。より良い学習環境を提供してあげたいと思います」
この要望は、その場にいた全員を驚かせた。矢崎粟たちがここまで子供たちのことを考えているとは、誰も予想していなかったのだ。
その言葉を聞いた子供たちは喜びを隠せず、澄んだ瞳で林監督を見つめていた。
「問題ありません。すべて手配させていただきます」このような意義深く、番組の評判も上がる企画に、林監督は当然快く同意し、すぐに笑顔で承諾した。
子供たちは彼の肯定的な返事を聞くと、すぐに歓声を上げ始めた。
矢崎粟たちは子供たちの喜ぶ様子を見て、村人たちと同様に心からの笑顔を浮かべた。
しかし、そのような笑顔は矢崎美緒の心を不快にさせた。彼女たちのグループは既に負けていたのに、今度は矢崎粟たちの善行と比べられて、完全に顔が上げられなくなってしまった。
矢崎美緒は冷たい目つきで矢崎粟たちを見つめた。彼女の予想が間違っていなければ、今ネット上では矢崎粟たちを褒め称える声で溢れているはずだった。
パフォーマンスが終わり、今回の番組撮影も無事に終了した。
林監督が番組終了を宣言し、配信を終了した後、出演者とスタッフは一緒に小さな庭に戻って荷物を片付け、副監督も彼らの携帯電話を返却した。
今回は皆で歩いて下山する必要はなく、番組側が既に車を手配しており、各出演者は来た時と同じ車に乗ることになっていた。