矢野常は激しく拒否した。「私は同意しません!」
矢野おじい様は彼が拒否することを予想していたかのように、怒った様子も見せず、ただ静かに言った。「お前がやめたくないのなら、今後矢野家の事業のことは考えなくていい。」
矢野常が矢野家の事業を得られないと聞いて、矢崎美緒は矢野常以上に動揺を見せた。
彼女は矢野常の腕を掴み、彼が口を開く前におじい様に言った。「矢野おじいさん、私は今後常さんとの付き合いをやめます。どうか怒らないでください。私のせいでこんなに優秀なお孫さんを見捨てないでください!」
冗談じゃない。彼女が最初に矢野常に近づいたのは、彼が矢崎粟の彼氏だったからだけでなく、矢野家の後継者だと見込んでいたからだ。
もし矢野常が後継者の地位を失えば、彼女のこれまでの努力は全て無駄になってしまう。
それは絶対に彼女の望むところではなかった。
矢野おじい様は矢崎美緒を一瞥し、笑いながら言った。「お嬢さん、よく分かっているね。」
矢崎美緒は苦しそうに口角を引き上げた。「矢野おじいさん、冗談を。私も常さんの友人として、彼が幸せになってほしいだけです。」
矢野おじい様は笑うだけで何も言わず、頷いて利木執事に矢崎美緒をもてなすよう命じて立ち去った。
「美緒、そこまでする必要はないよ。矢野家の支援がなくても、自分の力で...」
矢崎美緒は心の中で目を回し、矢野常の言葉を遮って優しく言った。「常さん、あなたがとても優秀で、矢野家の支援がなくても上手くやっていけることは分かっています。でも友人として、あなたの人生があまりに困難な道のりになってほしくないんです。」
矢野常が矢野家の後継者としての地位を失えば、彼女に何の助けにもならない。なぜ馬鹿げた友情のために支援を失うことになるのだろうか?
矢野常は矢崎美緒の本心を知らず、ただ彼女が自分のために犠牲を払う姿に感動していた。「美緒、君のような良い友達がいることは僕の幸せだよ。こんなにも僕のことを考えてくれてありがとう。」
傍らで矢野常の言葉を聞いていた利木執事は、この若旦那があまりにも純粋すぎると感じた。芸能界に入ってこれほど長い間、どうやってこんなにも純粋でいられたのか、矢野家に守られすぎていたからだろうか?
矢崎美緒はもう少し矢野家に留まり、最後は矢野常が直接彼女を玄関まで見送った。