矢崎粟は断ろうと思ったが、矢崎泰の次の言葉に断れなくなった。
矢崎泰は彼女が断ろうとしているのを察し、話を切り替えて遮った。「この資金は私が君の株式を買い取る代金だと思ってくれ。これからスタジオをしっかり発展させて、私に配当金をたっぷり稼がせてくれよ」
「はい!」
矢崎粟から肯定的な返事を得た矢崎泰は、携帯を取り出してその同級生に連絡を取り、直接矢崎粟と話し合う時間を約束した。
「タレントは芸術大学から探すつもり?それとも業界の他の芸能事務所から引き抜く?」矢崎泰は携帯を置いて矢崎粟に尋ねた。
この問題について矢崎粟はすでに考えていた。「枕営業を拒否して干されたり、圧力をかけられているタレントを探すつもりよ。芸術大学から良い人材を探すのは、スタジオが軌道に乗ってからにしましょう」
矢崎泰は同意して頷いた。矢崎粟の言う通りだった。すでにある程度のファン基盤を持つタレントと比べて、新人の芸術大学卒業生を育てるにはより多くの時間と労力が必要だし、育てた卒業生が将来必ずブレイクするという保証もない。
「それなら、紫音エンターテインメントから手を付けてみないか?」矢崎泰の顔に無害な笑みが浮かんだ。
矢崎粟は兄が単に矢崎弘に嫌がらせをしたいだけだとよく分かっていた。特に上手く乗って頷いた。「私もそう考えていたの」
彼女は矢崎家の他のメンバーとの関係を断ち切ることを決めた以上、これからどんなことが起きても相手と和解するつもりはなかった。たとえ先日矢崎弘が好意的な態度を示したとしても、彼らにチャンスを与えるつもりはなかった。
もともとバラエティ番組に出演する前は、紫音の束縛から逃れて自分のキャリアをより良く発展させ、より多くの人に好かれるように努力したいだけで、矢崎家と完全に敵対するつもりはなかった。
しかし彼女を家に帰らせて謝罪させるために、彼らは業界内で彼女を締め出し圧力をかけただけでなく、番組収録中にステルスマーケティングを使って彼女の評判を貶めた。
もし彼女が自己防衛のために事前に準備をしていなかったら、そして番組側が収録放送を生放送に変更していなかったら、バックに事務所を持たない彼女は今頃ネット全体から嫌われる悪女になっていただろう。
そうなれば芸能界で活動を続けることはおろか、芸能界で彼女を使おうとする人は一人もいなくなっていただろう。