森村博人が後で言った条件は決して無理なものではなく、矢崎粟はほぼ即座に頷いて同意した。
ただし、矢崎粟は最後に森村博人に、元のチームメンバーを一人残らず連れてくることを要求した。彼女が欲しいのは森村博人のチーム全体だった。
「それは...おそらく時間がかかると思います。先ほどおっしゃったように矢崎弘に気付かれてはいけないので、私たちは様々な理由を付けて順々に退職するしかありません。お待ちいただけますか?」森村博人は誠実な眼差しで矢崎粟を見つめた。
以前の彼の部下たちは多く、それぞれと深い友情で結ばれていた。しかし、生活上の様々なプレッシャーにより、三分の二のメンバーが高給を求めて現在の運営部長のチームに加わることを選んだ。
彼はそれを理解し支持していたが、まさかこれらのメンバーが加入した後、会社が約束した待遇は得られたものの、実際の仕事は周辺的な業務ばかりだとは思いもよらなかった。
森村博人はこれに激怒した。これは明らかに彼のメンバーたちを侮辱するものだった。
彼は何度も現在の運営部長に説明を求めに行ったが、相手はその度に愛想よく承諾するだけで、実際の行動は何一つ取らなかった。明らかに、社長に嫌われた前任の運営部長である彼を眼中に入れていなかったのだ。
「明日、会社に退職願を提出します」森村博人は決して優柔不断な人間ではなく、一度何かをすると決めたら、すぐに行動に移す人だった。
どうせ現在の運営部長は、ずっと前から彼が早く辞めることを望んでいた。明日彼が退職願を提出すれば、相手は心の中で喜び踊るだろう。転職の準備をしているとは夢にも思わないはずだ。
翌日、森村博人が会社に入ると、遠くから非常に見慣れた人影が目に入った。
「森、森村さん」その人の前にいた若い社員は森村博人を見るなり、すぐに緊張した様子を見せた。
社員の前に立っていた人物も振り返り、満面の笑みで森村博人を見た。「森村部長、今日は早いですね。何か用事でもあるんですか?」
「林部長、冗談を言わないでください。私はもう部長でもなんでもなく、ただの一般社員です」森村博人は相手が先ほどの発言で自分を嘲笑おうとしていたことを知っていたが、昨日矢崎粟と話がまとまったことを思い出し、今は身が軽く感じられた。