矢崎弘は矢崎若菜に怒らされた怒りがまだ収まらないうちに、目の前のパソコンには林監督が矢崎粟のツイートに返信した投稿が表示された。
【@安藤綾との協力を嬉しく思います。@矢崎粟の推薦に感謝します。】
このツイートを読んだ後、矢崎弘の既に憂鬱な気分はさらに悪化し、胸に詰まった息が吐き出せなかった。
矢崎政氏は彼が息苦しそうなのを心配して、パソコンの電源を切ろうとしたが、矢崎弘に止められた。
「大丈夫だ。林監督が矢崎粟にこれほど顔を立ててくれるとは思わなかった」矢崎弘には理解できなかった。矢崎粟は彼の妹を助けただけじゃないか。前回のバラエティー番組の枠を確保したことで、もう矢崎粟への恩は返したはずだ。なぜ林監督は今回も彼女に手を差し伸べるのか。矢崎家の怒りを買うことを恐れないのか。
当事者である矢崎弘よりも、部外者である矢崎政氏の方が状況をより明確に見ていた。「兄さん、矢崎粟は今やネット上で良い評判を得ています。それに、先日のリアリティショーで、彼女の実力もネットユーザーに認められました。林監督が彼女に顔を立てるのも当然です」
矢崎政氏は矢崎弘の方を向いて言った。「兄さん、もう以前の目で矢崎粟を見ないでください。彼女は変わりました」
矢崎弘は矢崎政氏をじっと見つめ、しばらくしてから視線を外した。「私が偏執的だったな。映像制作に没頭している四弟の方が物事を見通せているようだ」
長年職場で働いてきた自分よりも、創作に没頭している四弟の方が一目で事態を見抜けるとは。
そう考えているうちに、矢崎弘は軽く笑い出した。「まさに『当事者は迷い、傍観者は明らか』というわけだな。政氏、今日は私の迷いを指摘してくれてありがとう」
矢崎政氏は矢崎弘の胸の憂鬱が消えたようで、ほっとした。「兄さんは何を言っているんですか。兄さんの方が私よりずっと賢いです。ただ矢崎粟の今回の行動があまりにも腹立たしかったので、兄さんが頭に血が上ってしまっただけです。今日私がいなくても、兄さんはきっとすぐに立ち直れたはずです」
矢崎弘は笑いながら彼の肩を叩き、何も言わずにオフィスを出て行った。
一方、林部長はすでにネット工作員たちにネット上で世論を操作させ始めていた。今回は安藤綾の人格と私徳を攻撃するだけでなく、矢崎粟も一緒に攻撃するように指示した。