今になって考えると、もしそれらの運が全て妹から剥ぎ取られたものだとしたら、彼らはそんな運など要らないと思うだろう。
矢崎弘はしばらく考えてから言った。「美緒の運は確かにずっと良かったけど、だからといって美緒が運気を盗んだという証明にはならないよ!」
矢崎弘も認めざるを得なかった。この運の良さは少し異常すぎるが、矢崎美緒が矢崎粟の運気を盗んだということを受け入れることはできなかった。
しかし、心の中では矢崎粟の言うことが全て正しいという感覚が薄々あった。
まさか...本当に矢崎美緒がこれら全てをしたのか?
この瞬間、矢崎弘の心は揺らいでいた。
彼がまだ強情を張っているのを見て、矢崎泰は憤慨して口を開いた。「まだ分からないのか?信じたくなくても、今や事実が目の前にあるだろう。考えてみろ、最初に誰がお前をマネージャーにさせたんだ?」
矢崎美緒だ!
当時、矢崎美緒は高校一年生で、毎日マネージャーとしてタレントを管理するのはきっとかっこいいだろうと言い続けていた。
矢崎美緒は矢崎弘に資格を取るよう勧めた。
結果として、矢崎美緒の影響で、矢崎弘は本当にマネージャーになることが好きになり、会社の敏腕マネージャーにまでなった。
今思えば、確かに矢崎美緒と関係があった。
三男が歌手になったことも、さらに矢崎美緒と関係があった。彼女はいつも三男の矢崎若菜の前で、彼の歌声はとても素晴らしく、将来きっと多くの人に好かれるだろうと褒めていた。
矢崎若菜は毎日歌の練習をし、最後には本当に歌手になった。
矢崎政氏でさえ、矢崎美緒に励まされて行ったのだ...
一連の出来事を矢崎弘は思い出し、突然実感が湧いてきた。矢崎美緒に人生を操られていたような感覚だった。
当時、三兄弟が選んだ道は全て矢崎美緒と関係があった。このことは驚くべきことだった。
「どうやら、お前もそれほど馬鹿じゃないようだな。やっと分かったか」矢崎泰は彼の表情を見て、軽く笑った。もし彼がまだ理解できないなら、今後この弟の面倒は見ないつもりだった。
ソファに座っている矢崎弘の表情が徐々に暗くなっていった。
彼は以前には考えもしなかった側面を思い出し、恐怖が心の中に広がっていった。背筋に冷たい風を感じ、心が怖くなった。
矢崎美緒のあの純真な顔の裏に、一体何が隠されているのか?