それは矢崎美緒だったのだ!
「ピンポーン!」そう思った時、玄関のベルが鳴った。
外に誰かが来ていた。こんな遅くに誰だろうと思いながら、矢崎粟は立ち上がって外を見てみると、兄の矢崎泰だった。
「お兄ちゃん、どうしたの?入って座って。」
矢崎泰は入ってきて、笑いながら言った。「ちょうどこの辺を通りかかったから、様子を見に来たんだ。ついでにお菓子も買ってきたよ。小さい頃、お菓子が大好きだったよね。」
確かに、彼は大きな袋一杯のお菓子を持っていた。
「それは子供の頃の話よ。」矢崎粟は苦笑いしながら言った。
おそらく彼女への償いのつもりなのだろう。矢崎泰はいつも何か持ってきてくれる。でも彼女にとってはそれも温かい思い出だった。
この世界で、血のつながった家族は兄一人だけなのだから。