211 毒虫の卵

彼女は蝋燭に火を灯し、先ほど川上夕子と接触した手首を蝋燭の上で数回回した。

すると、かすかな痒みを感じた。

手首を上げてよく見ると、ピンク色の小さな点が現れていた。顔にできる吹き出物のような、目立たないものだった。

普段なら気にも留めないようなものだった。

矢崎粟は目を細めた。川上夕子は彼女が想像していた以上に悪質だった。彼女は単に相手の計画を台無しにし、渡部悠人を生かしただけなのに。

川上夕子は彼女の体に毒虫の卵を仕掛けたのだ。

この毒虫は、人の体内で孵化する。

一匹の毒虫が数万匹の小さな毒虫に分裂し、人の骨の中に入り込んで骨髄を吸い取って生きる。

吸収され続けることで、人は激しい痛みを感じる。

病院に行っても、原因は分からない。

毒虫に感染した人は毎晩骨を刺すような痛みを感じ、骨がだんだんと脆くなり、虫に少しずつ食い尽くされていく。

後期になると、もはや治療法はなく、死を待つしかない。

透明な毒虫は人体の死とともに死滅し、何の異常も気付かれることはない。

この毒虫は、国によって厳しく育成が禁止されている。

しかし現在でも国の南西地方では、上級呪術師たちが密かに育成し、必要とする者に売りさばいている。

この毒虫を使うのは非常に簡単で、虫卵を軽く押しつぶし、相手の体に向けるだけで、毒虫は相手の体内に潜り込む。

矢崎粟は川上夕子に手首を掴まれた瞬間、何か悪事を働くだろうと予想し、心の準備はできていた。

しかし、川上夕子がここまで残酷な手段を使うとは思わなかった。

まさに蛇蝎の心を持つ女だ。

矢崎粟は符紙を取り出し、それに向かって解呪の呪文を唱えた。

呪文によって毒虫を下毒した者に追跡させ、自業自得を味わわせることができる。さらに香り蝋燭の追跡機能と組み合わせることで、ホテル内の他の宿泊客に被害が及ばないことを確認できる。

矢崎粟は符紙を蝋燭の炎で燃やし続け、燃え尽きた後、その灰を赤い点に塗りつけた。

すぐに、透明な小さな虫卵が落ち、蝋燭の炎とともに窓の外へと飛んでいった。

今日は疲れていたので、矢崎粟はシャワーを浴びた後、ベッドで眠り、虫卵のことは気にしなかった。

一方、別の部屋では。

川上夕子は外から戻ると、まず椅子に座って電話をかけ、30分後にシャワーを浴びた。