川上燕は列の最後尾についていた。
矢崎粟の前を通り過ぎる時、川上燕は自然に歩きながら、素早く矢崎粟の指に触れ、矢崎粟は反応して、一本の髪の毛を受け取った。
二人の動きは自然で、誰も気付かなかった。
その後、川上燕はいつものように俯いて前に進み、川上夕子は最前列にいたため、二人の動きに気付くことはなかった。
矢崎粟は部屋に戻るとすぐに、スーツケースから金色のかかしを取り出し、かかしに生年月日を書き込んだ。
矢崎粟はその髪の毛をかかしに巻きつけた。
これらを済ませた後、朱砂を取り出し、かかしの四肢に朱砂で円を描き、呪文を書いた。
一分後、彼女はかかしをろうそくで火をつけ、特製の炉で燃やした。
すぐに、燃えるかかしから黒い煙が立ち上り、その煙は濃く、カビのような臭いを放った。
矢崎粟はタイミングを見計らい、すぐに符紙を取り出し、黒い煙を符紙に引き込んだ。
黄色い符紙がゆっくりと黒く変色し、濃い焦げ臭さを帯びていた。
全ての黒い気が集められて、やっとこの段階が完了した。
矢崎粟は全力を尽くし、黒煙を吸収する最後の一秒で、全身の気血が上昇し、突然目の前が暗くなった。
少し反噬を受けたが、休めば大丈夫だった。
大したことはない。
「よし」矢崎粟は黒くなった符紙を手に取り、折りたたんで特製の布袋に入れた。布袋はその気配を封じ込め、人に気付かれないようにできる。
今、川上夕子の運気の吸収を止めるには、最後の一歩を残すだけだ。
符紙を全て引き裂いて水に浸せば、川上燕に七割の運気を取り戻させることができる。
しかし今、矢崎粟は最後の一歩を完了させるつもりはなかった。
今すぐ運気を奪い返せば、それは川上夕子に対して優しすぎる。矢崎粟は川上夕子が勝利を確信している時に、致命的な一撃を与えようと考えていた。
そうしてこそ恨みが晴れる。
翌日、ホテルで朝食を済ませた後、矢崎粟は車で渡部悠人たちについて、骨董品オークション会場に向かった。
小島一馬も同行し、とても興味深そうだった。
骨董品オークションの盛況ぶりは以前から聞いていたので、彼も見識を広めたいと思っていた。
車を降りると、彼らはオークション会場の入り口で川上夕子と出会い、彼女の後ろには川上家の骨董品鑑定の専門家たちがいた。