矢崎粟は笑いながら言った。「私が必要な時に、また手伝ってくれればいいわ。その時のあなたの助けは、まさに雪中の炭となるでしょう」
川上燕を助けることは、矢崎粟が喜んでする事だった。
川上燕は真剣に頷いた。「これからあなたが私を必要とする時はいつでも、必ず全力で助けます」
「ありがとう」矢崎粟は遠慮せずに、川上夕子に符紙を一枚渡し、それを身につけるように言った。
この符紙には保護の機能がある。危険に遭遇した時、一度だけ身を守ることができる。
川上燕は符紙を服の一番内側のポケットに隠し、なぜか言い表せない安心感を覚えた。
矢崎粟は携帯の時間を確認し、「もう遅いわ。私たちは前後して出ましょう。それに、お互いを知らないふりをして。連絡を取れるように、友達追加しましょう」
ここまで言って、川上燕は困った表情を浮かべた。
「川上夕子が私の携帯をよく確認するんです。友達追加したら、見つかる可能性が高いです」川上燕が公の場から戻るたびに、川上夕子は彼女の携帯を取り上げ、連絡先やアプリをチェックする。
友達追加は、露見しやすすぎる。
「大丈夫よ。あなたの携帯に隠しシステムをインストールするわ。彼女が携帯を見ても、私たちのチャットは見つからないわ」
矢崎粟は川上燕の携帯を取り、数回タップして黒いウェブサイトに入り、さらに操作を続けた後、友達追加をして川上燕に返した。
「上部のタスクバーを下げて、歯車マークをタップし、後ろの設定で進むを選べば、チャット画面が見えるわ。ここでのチャットは送信後に自動的に消去されて、誰にも傍受されないの」矢崎粟は一度実演してみせた。
川上燕は心が落ち着いた。「分かりました。じゃあ先に出てください。二分後に私が出ます」
別々に出れば、疑われにくい。
「じゃあ、先に行くわ」矢崎粟は服を整え、そっとドアを開けて出て行き、自然に席に戻った。
川上夕子は彼女を一瞥し、客室のドアを見ると、川上燕が背中を丸めて出てくるのが見えた。
川上燕が座ると、川上夕子が口を開いた。「私の携帯の電池が切れたわ。あなたのを少し貸して」
川上燕は手を伸ばして携帯を取り出し、自然な表情で渡した。
川上夕子はロックを解除し、各種チャットアプリを開いて、連絡先を探し始めた。
異常は見つからなかった。