矢崎粟は言った。「その通り、あなたは矢崎若菜より不運ね。他人の厄運を防いでいるからよ。今回防いだことで、矢崎若菜は三日間不運から逃れられるわ」
厄運は影も形もなく、一度やってくると止められない。
矢崎弘は自発的ではなかったが、矢崎若菜が符紙を持っている限り、彼女の厄運を背負わなければならなかった。
「たった三日間助けただけなのに!」
矢崎弘は不満げに舌打ちをした。麻酔が切れ、足には刺すような痛みが残っていた。「このまま彼女の厄運を防ぎ続けたら、不運で死んでしまうんじゃないか?」
一度で骨折と脳震盪。次に不運が来たら、命が半分なくなってしまうのではないか?
「命まではないでしょうけど、病院通いは確実ね」矢崎粟は笑みを浮かべた。
矢崎弘は痛みに耐えられず、泣きそうな顔で尋ねた。「粟、法器をくれないか。本当に怖いんだ」
もう一度来たら、寿命が十年縮むかもしれない。
「はい、これを」矢崎粟は手を伸ばし、玉牌を渡した。
これは昨夜彼女が彫刻したもので、道家の模様が刻まれていた。玉牌は小さく、小指の爪ほどの大きさだった。
彼女が買ってきた翡翠の原石に比べれば、この玉牌は象の一本の毛ほどの価値しかない。
矢崎弘は玉牌を握りしめ、動くことすらできなかった。矢崎粟の作業の邪魔をしないように気を付けていた。
矢崎粟はテーブルの赤い蝋燭に火を灯し、目を閉じて呪文を唱えた後、赤い蝋燭の炎を玉牌に引き入れた。
さらに矢崎弘の気を一筋抽出し、玉牌に封入した。
五分後、法器は完成した。
矢崎弘は驚愕し、手の中の小さな玉牌を見つめた。こんな小さな玉で厄運を防げるとは思わなかった。
そして矢崎粟はたった五分で2000万円を手に入れられる。
この稼ぎ方は、本当に羨ましくてたまらなかった。
なんて簡単に稼げるんだ!
しかし、矢崎弘はこの言葉を口に出すことはできなかった。もし矢崎粟を怒らせて、法器を売ってくれなくなったら大変だ。
今、矢崎粟が法器を売ってくれるのは、すでに慈悲深い行為だった。
矢崎弘は少し考えてから口を開いた。「矢野常も法器を買いたがっているんだ。値段は問題ない。売ってくれないかな?」
「矢野常?あなた、矢崎美緒のことを彼に話したの?」矢崎粟の表情が一気に冷たくなり、矢崎弘を睨みつけた。