誰も同じ場所で待ってはいない、感情も同じだ。失ってしまったものは失ったまま、後悔しても無駄だ。
矢野常は目が真っ赤になり、以前の思い出が次々と蘇り、胸が刺すように痛んだ。
長年の感情がこうして取り戻せないなんて、信じられなかった。
矢崎弘は矢野常にもう一杯酒を注ぎ、感慨深げに言った。「俺たち兄弟も馬鹿だったな。昔、粟は俺たちにどれだけ優しかったか。大切にできなかった上に、あの白眼狼の美緒の味方ばかりして。今更後悔しても遅いんだ。」
時々矢崎弘は考える。もし以前の生活に戻れたら、きっと粟を大切にして、美緒に好き勝手させないようにするのに。
でも今となっては、それも叶わぬ夢だ。
矢崎粟はもう矢崎家には戻らない。矢崎弘という次男も、血のつながった友人程度の存在でしかない。