224 警察を呼ぶ

川上夕子は皆の視線が変わったのを見て、もはやそんなことは気にしていられなくなり、思い切って脅すように言った。「矢崎粟、妹を返さないなら警察に通報するわよ。そうなったら、簡単には済まないわ」

今すぐ妹を返せば、矢崎粟を見逃してやるという意味だった。

矢崎粟は嘲笑うように言った。「通報すればいいわ!もし本当に妹さんが行方不明なら、早く通報して、捜索のゴールデンタイムを逃さないようにね」

彼女の言葉は堂々としており、それによって川上夕子がより一層道化のように見えた。

もし川上夕子が本当に警察に通報しても、矢崎粟は川上燕に警察側に状況を説明させるつもりだった。川上燕が自分の意思で出て行ったのだと。

今や川上燕は成人しており、川上夕子には彼女を管理する資格はない。

この時、矢崎粟の服には宝石がはめ込まれたブローチが付いていた。その宝石の中には小型カメラが仕込まれており、今起きていることすべてを記録し、川上燕に中継していた。

一方、川上燕も携帯を手に、事態の推移を見守っていた。

ブローチは小さいが、画質は決して低くなかった。

矢崎粟は川上夕子の苦々しい表情をはっきりと撮影することができた。

川上燕は長年川上夕子と暮らしてきたため、今の川上夕子がどれほど苛立っているかよく分かっていた。

この瞬間、川上燕はようやく鬱憤を晴らすことができた。

川上家では、彼女はずっと川上夕子の影のような存在だった。川上夕子がどこへ行こうと、彼女もそこへついて行かなければならなかった。

川上夕子が食事を終えてはじめて、彼女は食卓につくことを許された。

そこにある辛さは、川上燕自身にしか分からなかった。

川上燕は涙を流しながら、同時に矢崎粟の冷静さに感心していた。矢崎粟は事態を完璧に処理し、誰にも隙を与えなかった。

もし自分だったら、こんなにうまくはできなかっただろう。

もし川上夕子が本当に警察に通報しても、川上燕は自ら警察に状況を説明するつもりだった。矢崎粟に迷惑はかけたくなかった。

渡部悠人は川上夕子がまだ何か言いたそうなのを見て、すぐに声を上げた。「川上夕子さん、早く入札用紙に記入してください。みんなの時間を無駄にしないでください。私たちは川上家の新たな輝きを見たいんです!」