276 気絶のふり

矢崎美緒が立ち上がると。

全員が矢崎美緒の方を見つめ、彼女の顔色が青ざめ、目が泳いでいるのに気づいた。

「さっきは気絶のふりをしようとしたんじゃないか?」小島一馬は腕を組んで尋ねた。

矢崎美緒は慌てて手を振った。「違います、目が痛くて、少し目を閉じて休もうと思っただけです。」

この憎たらしい小島一馬、なぜいつも彼女を見張っているの?

気絶のふりもできないじゃない!

「へぇ?」小島一馬は腕を組んだまま、笑みを浮かべた。

彼の笑顔に、矢崎美緒は涙を流した。「なぜいつも私を狙い撃ちにするんですか?目を閉じただけなのに怒鳴られて、本当に怖かったです。」

矢崎若菜も非難するような目で小島一馬を見た。

矢崎美緒は体が弱いのに、小島一馬はいつもびっくりさせて、本当に嫌な人だ。

「君を狙い撃ちにしてなんかいないよ!目を閉じて顔色が悪かったから、気絶するんじゃないかと心配しただけだよ。これは気遣いさ。」小島一馬は言った。

どうせ目的は達成したんだから。

矢崎美緒が気絶さえしなければ、何を言われても構わない。

矢崎粟ももちろん気づいていた。矢崎美緒がまた気絶のふりをして、これからの出来事から逃げ出そうとしていたことに。

幸い小島一馬が機転を利かせて、声をかけた。

そこで、矢崎粟も助け舟を出した。「小島さんはただ心配してくれただけだよ、気絶するんじゃないかって。同じグループなんだから、気遣うのは当然でしょう。」

「ふん!」矢崎美緒は冷たく鼻を鳴らした。「どうせ私一人じゃあなた達二人には勝てないわ。あなた達の言う通りにすればいいんでしょ。」

そう言って、矢崎美緒は怒って座り直した。

その時、矢崎若菜は矢崎美緒を見つめ、口を開いた。「美緒、私がやってみるわ。あなたが私の運気を故意に奪ったわけじゃないって、証明したいの。」

彼は矢崎美緒を信じていた。

矢崎美緒「……」

もう断れないじゃない。

矢崎若菜は心に決めていた。他人の運気を吸収するには条件が必要なのかどうか、確かめたかったのだ。

これから先、矢崎美緒はただ目の前の出来事を見つめることしかできず、何もできなかった。

なぜなら小島一馬が横で矢崎美緒の一挙手一投足を見張っており、彼女が矢崎粟の邪魔をするのを防いでいたからだ。