289 気運の流失

傍にいた矢崎政氏も、そのカップルの会話を聞いていた。

彼は内心、他人の不幸を喜んでいた。

以前、矢崎美緒と距離を保っていて良かった。少なくとも抱き合うような行為はなかった。この件は彼には及ばないだろう。

矢崎粟はホテルに着くと、買ってきた物を分類して置き、それから符紙を二枚描いた。

一枚は玉の皿に貼り、凶気が漏れるのを防いだ。

そうしないと、ホテル全体の運気に影響が出てしまう。

その後、矢崎粟は残りの一枚の符紙を澤兼弘に渡し、玉佩に貼って凶気を消すように言った。

矢崎粟が部屋に戻る時、階段を出たところで、矢崎美緒が矢崎若菜の部屋の前に立って、ドアをノックしているのを見かけた。

矢崎粟は階段の踊り場に身を引いた。

すぐに、矢崎若菜がドアを開け、「美緒、こんな遅くに何かあったの?」と尋ねる声が聞こえた。