312 田中凛を救う

観客席の人々は驚き、目を見開いて競技場を見つめた。

その時、矢崎粟は馬を駆って遠くから駆けつけてきた。

彼女は手を伸ばし、田中凛を馬に引き上げた。

田中凛が状況を把握する前に、自分が無事に矢崎粟の馬に乗っていることに気づいた。

彼女は胸をなでおろし、大きく息を吐いた。

矢崎粟のこの動作は、とてもかっこよかった。チームメイトを軽々と引き上げる様子は、まるでヒーローの登場のようだった。

観客席からは大きな拍手が沸き起こり、心からの歓声が上がった。

配信の視聴者たちも、次々と称賛の声を上げた。

【粟の馬術の技術、すごすぎる!】

【粟がいなかったら田中凛が危なかった。粟の救助がすごく早かった、粟大好き。】

【あれで落ちていたら、命が危なかったかもしれない。】

【矢崎美緒は故意にやったんじゃないかな?】

【間違いなく故意だよ。馬が衝突しても審判が反則を取らないと分かっていたから、無謀な行動に出たんだ。本当に陰険だ。】

【この救助の動作、本当にかっこいい。粟の馬術は最高レベルに達していると思う。この動作は私のコーチでもこれほど完璧にはできない!】

【前回の試合でも、矢崎美緒のチームが同じ手を使って、その時は落馬した選手が脚を骨折したんだよ。】

【矢崎美緒は絶対に故意だ!】

観客たちが議論する中、以前の配信の再生を探す人もいた。

彼らは三、四試合の中で、五人の落馬事故現場が田中凛の落馬の仕方と極めて似ていることを発見した。

相手はいずれも田中凛のグループだった。

試合で一、二人がこれで落馬するのは偶然かもしれない。

しかし今や五人が落馬し、そのうち三人が重傷を負っているとなると、これはもう偶然ではなく、意図的な危害だ。

配信の視聴者たちがこのことに気づき、心配になった。

矢崎美緒の次のターゲットは、おそらく矢崎粟だろう。どんな卑劣な手を使ってくるか分からない。

視聴者たちは矢崎粟に矢崎美緒を懲らしめてほしいと願う一方で、矢崎粟も罠にはまることを恐れていた。

遠くで、矢崎美緒は得意げに後ろを振り返り、田中凛の悲惨な結末を見ようとした。しかし田中凛が救助され、矢崎粟の馬の上に無事に座っているのを見て、何事もなかったかのようだった。

矢崎美緒は怒りが極限に達し、手綱を握る手に青筋が浮かんだ。