矢崎粟が振り返って立ち去ろうとした時、中庭の門まで来たところで、藤田川の声が漂ってきた。
「お前の師匠の玉壁を、多くの者が狙っている。この数日、南西の呪術王が中華街に入って、矢野夫人と密接に連絡を取っているようだ。おそらくお前を狙っているだろう。これからは気をつけろ」
矢崎粟は振り返って、笑みを浮かべた。「はい、分かりました!」
そう言うと、大股で中庭を後にした。道中、彼女の足取りは随分と軽くなっていた。
青い空を見上げた。どうやら、嵐が近づいているようだ。準備をしなければならない。
ホテルの部屋に戻ると、矢崎粟は多くの古文書を調べ始めた。
黄色い蝋燭を取り出し、その炎の下で様々な符紙を描き始めた。
一方、中華街の南西の角にあるホテルでは。
516号室。
呪術師は木箱を取り出し、中には黒くて太い虫が入っていた。
虫は十八本の足を持ち、頭の上にはカタツムリのような触角があり、体には粗い皺が刻まれていた。
呪術師の前のテーブルには、かかしが置かれていた。
かかしの顔には、一枚の紙が貼られていた。
紙には矢崎粟の顔が印刷されており、かかしの首には一本の髪の毛が巻き付けられていた。
呪術師は細い針で自分の指を刺した。
そして、その血をかかしの頭頂部に塗り、頭全体が赤褐色になるまで続けた。
呪術師は得意げに笑うと、朱砂筆を取り出してかかしの四肢に鎖を描いた。
最後に、かかしの腹を裂き、箱の中の呪虫をかかしの腹の中に入れた。
呪虫は必死にもがきながら、かかしの腹の中へと潜り込んでいった。
呪術師は呪文を唱え、両手を素早く動かした。
かかしは生き返ったかのように激しく暴れ、頭部も震えていた。
しばらくして、呪術師はかかしの腹に藁を詰め、縄で縛り上げた。
呪虫はうまくかかしの腹の中に入り込んだ。
ある中庭で。
西側の部屋で、矢崎美緒は窓際に座り、くつろいで果物を食べていた。
突然、彼女の手が止まり、四肢の力が抜けた。
手首と足首に奇妙な拘束感があり、まるで鎖で縛られているかのようだった。
矢崎美緒は驚いて立ち上がり、手首を見た。
しかし、異常は見当たらなかった。
そして、お腹の中で何かが噛み付いているような感覚があり、五臓六腑が痛んだ。
特に心臓の辺りは、噛みちぎられたかのように痛み、息ができないほどだった。