矢崎粟が振り返って立ち去ろうとした時、中庭の門まで来たところで、藤田川の声が漂ってきた。
「お前の師匠の玉壁を、多くの者が狙っている。この数日、南西の呪術王が中華街に入って、矢野夫人と密接に連絡を取っているようだ。おそらくお前を狙っているだろう。これからは気をつけろ」
矢崎粟は振り返って、笑みを浮かべた。「はい、分かりました!」
そう言うと、大股で中庭を後にした。道中、彼女の足取りは随分と軽くなっていた。
青い空を見上げた。どうやら、嵐が近づいているようだ。準備をしなければならない。
ホテルの部屋に戻ると、矢崎粟は多くの古文書を調べ始めた。
黄色い蝋燭を取り出し、その炎の下で様々な符紙を描き始めた。
一方、中華街の南西の角にあるホテルでは。
516号室。
呪術師は木箱を取り出し、中には黒くて太い虫が入っていた。