矢崎美緒は携帯を取り出し、アドレス帳を見返した。
最後に、彼女の目は矢崎政氏と矢野常の二人の名前で止まった。
彼女は知っていた。矢野夫人の件で、矢野常はまだ中華街を離れておらず、矢崎政氏は病室で矢崎若菜の看病をしていることを。
この二人を利用できる。
そこで、矢崎美緒は携帯を取り出し、まず矢野常にメッセージを送った。【常さん、まだ中華街にいると聞きましたが、私も最近暇なので、一緒に出かけませんか?素敵な景色に出会えるかもしれません。】
送信後、矢崎美緒は少し考えてから、矢崎政氏にも同じメッセージを送った。ただし、呼び方を変えただけだった。
彼女は矢崎政氏へのメッセージに謝罪の言葉も添えた。
二通のメッセージを送った後、彼女は期待に胸を膨らませながら返信を待った。
バーにて。
矢崎政氏と矢野常はテーブルに座り、二人とも苦々しい表情をしていた。
矢野常は自分にお酒を注ぎ、一気に飲み干した。
彼は苦笑いして言った。「思いもよらなかったな。まさか俺が自分から君を飲みに誘うなんて。」
中華街では、他に誘える人がいなかったのだ。
矢崎政氏は首を振って、「ちょうど私も一杯やりたかったところです。この数日、兄の状態も良くなって、傷も徐々に治ってきて、私もだいぶ楽になりました。」
矢崎若菜のために二人の介護士を雇い、昼夜交代で看護させているので、矢崎政氏は時々様子を見に行くだけでよかった。
二人は並んで座り、気ままに会話を交わした。
ステージでは歌手がフォークソングを歌っており、バーの雰囲気は悪くなかった。
しばらくすると、二人の携帯が続けて振動し、確認すると二人とも眉をひそめ、表情が曇った。
矢崎政氏が先に尋ねた。「矢崎美緒からメッセージが来ましたか?」
矢野常は頷き、嘲笑を浮かべながら、「一緒に出かけようって誘ってきた。まさか、あいつがこんなに厚かましいとは。」
こんなことになっているのに、まだメッセージを送ってきて邪魔をする。
矢崎政氏は笑って、「私にも出かけようって誘ってきました。」
彼は携帯を矢野常に見せ、矢野常は呆れて言った。「呼び方以外、メッセージ内容が全く同じだ。」
二人が一緒にいなければ、気付かなかっただろう。
矢野常は矢崎政氏を見て、「会うつもりですか?」