矢崎正宗は頷いて、「言われなくても、さっき既に通達を出したところだ」と言った。
今後、澤家に関係する企業とは一切取引しない。これは業界内への警告だ。澤家を助ける者は矢崎家の敵となる。
今回こそ、澤家に矢崎家の実力を思い知らせてやる。
矢野夫人は何度も彼の底線を踏み越え、娘の粟を狙い、さらに妻の名誉を傷つけた。
矢崎正宗がここで何もしなければ、これまでの年月は無駄になってしまう。
小林美登里はそれを聞いて、心が躍った。
夫までも自分の味方についたのだから、きっと澤蘭子を懲らしめることができる。
矢崎正宗が病室で澤家への報復を考えているところに、一本の電話がかかってきた。
見知らぬ番号の固定電話だったので、不思議に思いながら「もしもし?何のご用でしょうか?」と尋ねた。
電話の向こうで、道家協会の管理人が笑いながら「矢崎美緒さんのお父様ですね?先ほどご家族の長老様にお電話したのですが、家の事には関与しないとおっしゃって、あなたに連絡するように言われました」と言った。
これが彼が矢崎正宗の個人番号を持っている理由だった。
矢崎正宗は一瞬戸惑ったが、思い出して「ああ、分かりました。何かご用件でしょうか?」と答えた。
管理人は続けて「あなたの養女が邪術で運気を盗む件について、手がかりが掴めました。詳細は電話では話しづらいので、本日お越しいただけますでしょうか?」と言った。
矢崎正宗は「分かりました、今すぐ参ります」と応じた。
電話を切ると、矢崎正宗は深い思考に沈んだ様子だった。
小林美登里の方を向いて、「道家協会に行ってくる。君はホテルに戻っていてくれ。気をつけて、澤蘭子に隙を突かれて呪術師に呪虫をかけられないようにな」と言った。
小林美登里は深刻な表情で頷き、「分かりました。外部の人間とは接触せず、ホテルに戻ったら外出もしません」と答えた。
妻が理解したのを確認すると、矢崎正宗は階下に降りて病院を出た。
家の馬車は小林美登里に任せ、自分は客待ちの馬車に乗った。
小林美登里はホテルで矢崎若菜に少し付き添った後、彼の状態が安定していることを確認して病室を出た。
彼女が階下に降りると、馬車は既に病院の入り口で待っていた。
彼女が大股で近づいていくと、馬車から3メートルほどの所で、ボロボロの服を着た大道芸人と偶然ぶつかった。