矢崎粟は口角を上げ、小林瑞貴が録音をして証拠を握ろうとしているのだろうと察した。
彼女は不思議そうに尋ねた。「私がいつあなたたちを殴ったの?それに、あなたたちの怪我はどうしたの?」
小林瑞貴は冷ややかに鼻を鳴らした。「否認しても無駄だ。私は全て知っている」
矢崎粟は続けた。「本当に何を言っているのか分からないわ。用事がないなら、切るわね。さようなら」
そう言うと、彼女はすぐに電話を切った。
相手が録音していようとも、小林瑞貴に把柄を握られるわけにはいかない。後々面倒なことになるのは避けたかった。
話し中音を聞いた小林瑞貴は怒りで座席を殴りつけた。
運転席の運転手は恐る恐る言った。「若様、どちらへ参りましょうか?小林家へお戻りですか?」
彼は自分の携帯電話に目を向けた。小林瑞貴が携帯を壊すのではないかと恐れていた。