593 長引く病

しばらくして、田中浩はようやく口を開いた。「あの年、就職説明会の前日に突然高熱を出して、同級生に病院に連れて行かれ、丸三日入院していた。退院して戻ってきたときには、就職説明会は終わっていたんだ」

「就職説明会の数日前に、普段と違うことは何かありましたか?あるいは、普段と違うものを食べたり飲んだりしましたか?」矢崎粟は誘導するように尋ねた。

彼女は田中おじさんの運命が変えられただけでなく、体に毒が仕込まれていることを発見した。この毒こそが、彼が長年病気に苦しむ原因だった。

この件は間違いなく田中凛の母親と、その背後にいる人物に関係している。

矢崎粟の言葉を聞いて、田中浩は再び回想に浸った。

よく考えてみると、本田水鳥とは就職説明会の一ヶ月前に知り合い、一ヶ月の付き合いを経て正式に交際を始めたのだった。

田中浩はゆっくりと話し始めた。「私の記憶が正しければ、就職説明会の前日に凛の母親と公園を散歩して、その日の昼は彼女の作ったお菓子を食べ、夜は学食で食事をした。それ以外は何も食べていないはずだ」

その日、本田水鳥と話をしているとき、就職説明会のある会社にどれほど入社したいかを話し、本田水鳥は必ず成功すると祝福してくれた。

しかしその夜、熱を出してしまった。

傍らにいた田中凛は手を強く握りしめ、表情が暗くなった。もしこの件が母親と関係しているのなら、母親はあの時一体何をしたのだろうか?

「実を言いますと、本来あなたは富貴の運命でした。もし不測の事態がなければ、就職説明会で外資系企業に入社し、幹部となって社長の娘さんと結婚し、子宝に恵まれ、さらに起業して大実業家になっていたはずです」矢崎粟はゆっくりと説明した。

田中浩はその話を聞いて、心に不思議な感覚が走った。まるで自分の人生はそうあるべきだったかのように。

しかし今は病気に苦しめられている……

しばらく考えてから、彼は息を吐いて言った。「私には凛がいれば、この人生で十分満足だよ。以前の運命なんて本当のものじゃない。過去のことは全て水に流そう」

過去にこだわって何になるのか?今の状況を素直に受け入れて、凛と幸せに暮らす方がいい。

矢崎粟の目に賞賛の色が浮かんだ。普通の人には田中浩のような達観さはない。手に入れることも、手放すこともできる者こそが真の英雄だ。