605 矢崎美緒を見舞う

矢崎政氏は彼に電話を指差して、「早く出なよ。さもないと切れちゃうよ」と言った。

矢崎若菜はようやく不承不承と電話に出た。「もしもし、何かご用ですか?」

「矢崎家の前にいるんだ。管理人に今すぐ門を開けるように言ってくれ。それと、お腹が空いているから、朝食も用意してもらえるかな。ありがとう!」小林博はそう言うと、電話を切ろうとした。

矢崎若菜は驚いて尋ねた。「戻ってきたのに、どうして美緒の看病をせずに矢崎家に来るの?」

小林博は答えた。「もう美緒には会ってきたよ。君たちと旧交を温めに来たんだ。詳しい話は着いてからにしよう。じゃあね!」

そう言うと、彼はパンと電話を切った。

矢崎若菜はテーブルを叩いた。「小林博は一体何がしたいの?何も言わずに人の家に食事をしに来るなんて、どういうことよ?」

彼は小林博に会いたくなかった。小林博は既に矢崎美緒に洗脳されているから、会話をしても必ず矢崎美緒の話題になるに違いない。

矢崎政氏は少し考えてから、結論を出した。「矢崎美緒が彼を寄越したんだと思う。私たちにも病院に来て看病してほしいという使者として」

矢崎若菜もうなずき、表情は険しかった。「矢崎美緒は相変わらず狡猾ね。私たちが行かないのを知っているから、わざわざ小林博を使って誘おうとしているのよ。私は矢崎美緒に会いたくない」

「僕も会いたくない」矢崎政氏は冷たい表情で言った。

しばらくすると、小林博がリビングに入ってきて、テーブルの上の朝食を見渡した。使用人がもう一人分の朝食を運んできた。

小林博は座り、周りを見回して言った。「矢崎家もずいぶん寂しくなったね?おばさんとおじさんもいないし、二人だけで寂しくないの?ちょうど僕が相手になってあげられるよ」

矢崎政氏は少し笑って、「大丈夫だよ。今は静かな方が好きなんだ」と言った。

彼は寂しくても、矢崎美緒のところには行きたくなかった。

小林博は車椅子に座っている矢崎若菜を同情的な目で見て、「足の具合はあとどのくらいかかるの?随分外出してないでしょう?」と聞いた。

彼は矢崎若菜を連れ出して、ついでに病室の美緒に会いに行こうと考えていた。それなら自然な流れになるだろう。