食事を終えると、小林博は病院を出た。
彼は最近、矢崎粟が東京のロケ地で撮影をしていると聞いた。そこは大きくないので、中に入れば必ず矢崎粟を見つけられるはずだ。
小林博は車に乗り込むと、矢崎若菜に電話をかけた。「矢崎粟と話をしに行くんだが、お前たち来ないか?暇なら、来て応援してくれ。」
小林博は考えていた。もし矢崎粟が言うことを聞かなければ、矢崎若菜と矢崎政氏に矢崎粟を説得させようと。
矢崎政氏と矢崎若菜はそれを聞いて、心が震えた。
彼らと矢崎粟の関係は良好とは言えず、小林博によってさらに悪化すれば、どうしようもなくなる!
父が去る時、兄弟たちに矢崎粟をよく世話するように言い残したのだ。彼らはもはや傍観者ではいられず、確実に矢崎粟の味方をしなければならない。
矢崎若菜は言った。「矢崎政氏と矢崎弘が一緒に行けばいいわ。私は足が不自由だから、家で良い知らせを待っているわ。」
そう言うと、矢崎若菜は電話を切り、今度は矢崎弘に電話をかけて、事情を全て説明した。
矢崎弘は怒って直ちに車で家に戻り、矢崎政氏を迎えに行き、撮影現場へ向かった。矢崎粟の方は、すでに撮影の半分を終えていた。
彼女は各シーンを深く研究していたので、撮影は非常にスムーズに進み、キャラクターの感情を完璧に表現できていた。
監督も矢崎粟にとても満足していた。
午前中の最初のシーンが撮影終了後、次のシーンのセット準備に一時間半ほど必要だった。
監督は笑顔で言った。「粟、近くの茶館でお茶を飲みながら、ヒロインのこの段階での変化について話し合いましょう。」
矢崎粟は笑顔で頷いた。「はい、私も疑問に思うことがありますので。」
撮影現場の近くには商店街があり、多くの店が並んでいた。
矢崎粟は茶館で監督と少し話をしていると、スタッフの一人が彼女に近づき、耳元で何かを告げた。
矢崎粟は外を見た。
小林博が外に立っているのが見えた。表情は冷たく、彼女に向かって頷いた。
二人はそれほど親しくないのに、矢崎粟には小林博が何の用で彼女を探しているのか想像もつかなかった。小林瑞貴の呪いの毒の件だろうか?
矢崎粟の知る限り、小林博と小林瑞貴の関係はあまり良くないので、小林瑞貴のために彼女を訪ねてくるはずはない。
となると矢崎美緒のことだ!